2020年3月30日、『こぶしファクトリー』というグループが5年間の活動に幕を閉じた。
『こぶしファクトリー』は「ハロー!プロジェクト」から輩出されたアイドルグループであり、2015年9月2日にメジャーデビューし、その年のレコード新人大賞も受賞した。東映による主演映画も制作されたり、通算で8枚のシングルと2枚のアルバムもリリース。2019年にはグループ初の単独公演とライブツアーも開催されるなど、まさにハロプロを代表するグループとして一番勢いに乗っているグループだった。
彼女たちが解散して、1年と半年が過ぎようとしている。ついこの前のことのように覚えているけれど、時間はあっという間に流れていく。自分が『こぶし』を知ったのは、5年間の活動の中で解散するまでのたった3ヶ月の間だった。
何度かブログでも触れていたけど、自分がハロプロを認知したのは2019年も終わりに差し掛かる頃で、そこから気づけばなし崩し的にハマっていった。CSで放送されていた年末のカウントダウンライブである『ハロコン2019』もがっつり録画したし、年が明ければYouTubeで公式が提供するハロプロ関連の動画を見まくっていた。
この時点で自分がハロプロを知った元々のキッカケは『アンジュルム』というグループだったので、彼女たち目当てでこのライブも見ていたし、正直なところ他のグループは流し見程度というか、「他にもこういうグループがいるのか〜」ぐらいの認知度だった。
ハロプロはYouTubeに公式チャンネルが複数設けられているので、各シングルのMVや色んな企画、メンバーへのインタビューなどをいつでも見ることができる。数珠つなぎのようにおすすめ欄から次々と動画を紹介される中で、ふとした時にある動画を見つけた。それはハロプロのアイドルが往年の名曲「LOVEマシーン」をアカペラでカバーする、という動画だった。それが『こぶしファクトリー』との初めての出会いだった。
本当に衝撃だった。
「なんなんだこれは…」としか思えなかったこの驚きは、今でもハッキリ思い出すことができる。人生経験の中で少なからず刷り込まれてきた「アイドルってこうだよね」という価値観が、音を立てて見事に崩れていく瞬間だった。ハロプロという集団がアイドル自体のポテンシャルを底上げしているのは、ハマり始めの段階で感じていたことではあったし、一人一人の力で充分に戦える歌唱力、見る者の目を奪うダンスパフォーマンス、個性豊かなキャラを持つメンバー達、どこを切り取ってもレベルが高いとはまさにこのこと。
アイドルという枠組みで出来ることを増やしていく、アイドルの可能性を現在進行系で拡げていく強さがハロプロにはあると感じていた。その中でこの『こぶしファクトリー』のアカペラ動画を見た(聴いた)時は、頭から水をかぶったというのだろうか、圧倒されすぎてカルチャーショックに近い感覚を覚えた。
それ以降、『こぶしファクトリー』のこと以外を考えられなくなった。全員歌が上手くハモリの美しさまで兼ね備えていること、忍者役を演じたトンチキ主演映画があること…パープル担当の子をついつい目で追ってしまうこと、などなど。
発表されている歴代のシングルも聴いてみると、恋愛ものよりカッコいい系の楽曲のほうが多く、彼女たちの持つ熱いパッションがそのまま歌声に乗せられていることがビシバシ伝わってきた。調べれば調べるほど自分でも驚くほどに、『こぶしファクトリー』のさまざまな要素がパズルのピースを埋めていくようにハマっていく感覚を覚えた。「すごいグループに出会ってしまった…!!」もう嬉しさと楽しさしかなかった。
しかし、2020年1月8日、夜の22時。
Twitterのタイムラインに衝撃のニュースが飛び込んでくる。
とにかく意味がわからなかった。悲しさや動揺より、そもそものニュースの意味が分からなかった。何度読み返しても文章が自分の中に入ってない、取り込むことが出来なかった。こんな経験は初めてだった。
しかしその年の3月末で解散をするという避けられない事実がそこにはあって、ただただ残念でしかなかったし、それでも次のステップへ進むことを決めた彼女たちを応援したい気持ち、相反する二つの気持ちにどう折り合いをつければよいのか分からなかった。奇しくもこのニュースで、自分は『こぶしファクトリー』のメンバーの名前を全員覚えた。皮肉な話だ。
ただ決まってしまったものは仕方がないし、変えることも出来ない。ゴールが決まっているのなら、そこに至るまで精一杯応援するのがファンの努めというもの。これ以降、『こぶしファクトリー』をさらにひたすら調べる日々が続いた。もっと早くからファンになりたかった思いは抱きつつ、5年分の活動を残り3ヶ月で駆け抜けてやろうという意気込みしかなかった。
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いろいろと知っていく中で感じたのは、『こぶしファクトリー』は“技”のグループだな、ということだ。(あくまで個人的な感覚の話だということは初めに言っておきたい。)
ハロプロの属するさまざまなグループの中でも、特に『こぶしファクトリー』は“歌う”という一点においてどこまでも秀でているというか、歌っている時の彼女たちが作り出すグルーヴは別格だなあ、と。一人一人の放つ個性豊かな力強い歌声はそのままに、その五人の歌声が混ざり合って放たれる音の圧力は聴いたものに衝撃を与えると思うし、ライブパフォーマンスに定評があるのもうなずける。
そんな彼女たちの努力の結晶が先ほども話したアカペラなんだけど、そのアカペラ中に何振り分けられた歌のパートが、グループにおけるメンバーの立ち位置とも重なってくるのが実は面白いなあ、と。
センターでリードボーカルを務めるのは、浜浦彩乃(はまうらあやの)さん。
結成当時からグループ内のセンターを務めているだけあって、彼女が真ん中にいるとバランスが取れているというか、戦隊でいうレッドのような安心感がある。浜浦彩乃さんの歌声は、他のメンバーに比べるとビブラート自体が少ない分、真っ直ぐにどこまで突き抜けていく自然体な歌声が魅力だなあ、と。その真っ直ぐな彼女の歌声が中心にあるだけで、楽曲に芯が通うような気がするんですよね。
浜浦さん自身も『こぶしファクトリー』というグループへの愛が強く、ファンのことも常に気にかけてくれている。少し強火すぎる部分もあるけど、それも含めて浜浦さんのストイックな一面の証左に繋がっているから許せてしまうのかなあ。
そしてサイドを固めるのが、野村みな美(のむらみなみ)さんと井上玲音(いのうえれい)さん。
グループに視線を向けたときにパッと目を引くのがこの2人だと思っていて、特にパフォーマンスにおいて目立つ存在だなあと。野村みな美さんは歌声の力強さで言えば5人の中で一番のパワーを秘めていると思う。「どこからその声が出てんの!?!?!?」と感嘆するほど熱量を感じる歌声は、彼女自身の魂をビシバシと感じさせられる。ダンスやフリの全力パフォーマンスにも、その魂を感じるキレの良さが気持ちいい。
そのパフォーマンスからは想像できない、喋り始めるとその独特の感性ゆえの天然トークにも驚かされて、何度か本当に何を言っているのかわからないこともあった。最高。そういう舞台上と降りた後のギャップが、彼女の魅力なのでしょうね。
井上玲音さんはその正統派美少女な見た目とは裏腹に、低音ボイスからの歌声にブーストがかかるイメージ。がなり声も出せるし音域に深みを与えているのは井上玲音さんのおかげなのかなと思ったり。持ち味であるボイスパーカッションの錬度もどんどん増しているし、実はグループ内で最年少っていうことにも驚かされる。
こぶし解散後も唯一ハロプロに残っているメンバーで、このブログでも『推し』を公言しているのですが、結局のところ全部好きです(説明放棄)。
じゃあ残りの奥にいる二人はどうなのか?というと、ポジション的にも一歩引いた立ち位置だし、他のメンバーに比べれば目立つ存在ではないのかもしれない。ただこの二人こそ、『こぶしファクトリー』を支えていた縁の下の力持ちなのではないかと思う。
和田桜子(わださくらこ)さんはライブでのMCや公式動画を見ていると、トークをする側にも聞く側にも状況に合わせて切り替えていて、場に合わせた立ち回りが凄く上手なんだな、と。全体的にほんわかした柔らかい雰囲気をまといつつ、グループ内でのバランサー的な役目も担っているのかな、と。
彼女自身パフォーマンスの成長がグループ内でいちばん著しかったと言われているのにも納得で、歌唱パートの割り振りも増えたことや、ラップを歌わせると抜群にカッコいいという一面もあり、ハモらせれば彼女の他にはいないんだよなと聴くたびに思わせてくれる。
そして最後の一人である広瀬彩海(ひろせあやか)さんは、どれだけハイトーンの歌声が必要なときもそこに合わせた高音でぶれずに歌い切ってしまう安定感が凄すぎる。ハロメンの選ぶ歌が上手いメンバーにも選ばれたほどの実力者であり、彼女の歌声を聞けばその結果にも納得だ。
広瀬彩海さんは『こぶしファクトリー』のリーダーであり、どこまでもメンバー思いでファン思いで、その愛の強さがリーダーである所以なのかな、と。彼女の思いの丈が綴られたブログを読むと、そこまで考えてくれるリーダーを支えるのは俺たちしかいないんだ!と思わせてくれる。
それ以上もそれ以下もなくて、この5人だからこそ成し得た絶妙なバランスが保たれている彼女たちは、デビュー当時からこうだったわけではない。そこを振り返るには『こぶしファクトリー』そのものの歴史を辿らなければならない。
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『こぶしファクトリー』の活動した5年間は、逆境が常に立ちはだかる試練の道だったように思う。2015年のデビュー時からメンバーが5人だったわけではない。結成当時は8人いたメンバーも、そこから6人になり、最終的に今の5人体制となった。彼女たちの歴史と向き合う中で、決して順風満帆とはいえないこの話題を避けて通ることは出来ない。調べるとすぐにヒットするけれど、要するにメンバーの脱退が続いたのである。これは卒業とは違っていて、グループ運営におけるルール違反などが発覚した場合の措置としての“脱退”である。
その脱退に至った理由については明言されていないし、真相は誰にもわからない。しかし脱退という措置が講じられ、ネット上で憶測が飛び交う状況が生まれてしまったことは事実であり、この段階に陥ってしまうとグループに着せられたネガティブなイメージを拭うことは難しくなる。飛び交う噂がスキャンダル絡みだったこともあり、余計に拍車をかけていたのだと思う。当時はハロプロきっての新人グループで、今から売り出していくぞ!というタイミングでの知らせだったため、完全に出鼻をくじかれた状態だった。デビューしてまだ2年の2017年の出来事であった。
「8人体制の頃から応援していたファンは、果たして5人体制のこぶしファクトリーを応援できるのだろうか」、ネットの海を渡る中で見かけたとあるファンの声だった。当初からほぼ半数のメンバーが減って8人から5人になってしまうと、それはもう完全に別のグループだろう。それに加えてグループに貼られた嫌なレッテル、メンバーに罪は無くても、事務所や彼女らを取り巻く大人たちへの対応に少なからず不満は残るわけで。それらを一旦横に置いて手放しで応援するというのは、そう簡単にできることではないと思う。
自分自身は『こぶしファクトリー』が5人のメンバーで構成されているときしか知らなかったし、だからこそフラットな目線で彼女たちを応援できるのかもしれない。この脱退騒動がキッカケで離れてしまったファンの方々を、自分は攻めるつもりもないし致し方ないところもあると思う。しかし、そのイメージを変えるべく、彼女ら5人がどれほど奮闘したのかも分かって欲しい…という思いもある。
5人で活動を再開してから(6人時代にその片鱗は見せていたけど)、『こぶしファクトリー』はその方向性を大きく変えた。当時はハロプロらしいネタっぽいトンチキ楽曲を歌いながら、明るさと若さで盛り上げていく印象だったが、活動を再開させてからはその方向性をガラリと変え、個人の歌唱力と5人のユニゾンで魅せていく実力派で進むようになった。ニチアサで例えるなら、前期と後期で作風がぜんぜん違う『響鬼』のようなイメージ。
そこで彼女たちが身につけたのがアカペラだった。素人目に見ても「やれ」と言われてすぐに出来るものではないこの技術に、こぶしの5人は挑戦した。下記のインタビューにて、これを始めたことで普段の歌割りと自身の音域の棲み分けを感じたり、より周りの音を聴くことが出来るようになったと語っているように、アカペラは彼女たちの歌やダンスに至るパフォーマンスの礎に自然となっていた。他のアイドルにはない強みとしても『こぶし』のアカペラは、ライブでも必ず盛り上がる名実ともに彼女たちの代名詞となっていった。
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アカペラを通して格段にレベルの上がった歌唱力、数多のライブを経験して得たパフォーマンス、彼女たちの歩んだ5年間の集大成が全て注ぎ込まれた解散ライブ「こぶしファクトリー ライブ2020 ~The Final Ring!~」は、本当に素晴らしかった。CSで生放送されていた映像の録画を、今でも見返すほどに大好きなライブだ。
会場となった東京ドームシティホール、ニチアサを見る人にとっては馴染み深い場所であり、最大3000人のキャパを誇るまさにうってつけの場所だ。しかしコロナ渦の影響で無観客開催を余儀なくされてしまった。もっというと、当日まで予定されていた各種イベントもほぼ中止、最後のバスツアーだけが奇跡的に開催された。解散までにひと目会うことが叶わなかったファンも多くいるだろうし、最後に一人でも多くのファンと会うことが出来なかったこぶしの5人を思うと、どちらもとても悲しい。誰が悪いとかではない。ただただ悔しい。無観客開催が決まったのは当日のわずか一週間前、事務所も最後の最後までやり方を模索してくれていたんだと思う。
(↑自分とほぼ同時期にこぶしファクトリーにハマったログさん。勢いのままバスツアーへ申し込み、一生の思い出になったことを前・後編で語ってくれています。現場の雰囲気がよく伝わる詳細なレポと、今しかないこの時の為に参加したログさんの行動力には頭が上がらない…。)
それでもステージの上に立つ彼女たちは眩しくて、そんな悲しみや悔しさを微塵も感じさせない、ポジティブなパワーに満ち溢れていた。今回のセットリストは、オタクなら誰もが考えうる理想の完成形であり、今までで一番のセトリだった。オープニングの「Yes!We are family~こぶしver.~」で5年間をセルフ総括し、アウトロからの繋ぎでデビューシングルの「念には念(念入りVer.)」、5人で再活動のスタートを切った「これからだ!」。という最高の滑り出し。
そして再始動時代に発表されたセカンドアルバムからの楽曲と、アカペラでカバーした歴代楽曲のMIXメドレーが最高峰のユニゾンで奏でられ、春の訪れと別れを歌った「ハルウララ」、ラストシングルの「青春の花」で前半戦は締めくくられた。
そして後半は「ラーメン大好き小泉さんの唄」から始まり、8人時代のシングル曲を中心にトンチキ路線を思い起こさせる笑いと元気にあふれる楽曲をノンストップで歌い上げる。
特にグッときてしまったのは、「闇に抜け駆け」という楽曲を2番から歌ったこと。このパートを担当していたのは脱退した3人のメンバーであり、彼女ら5人がこれを歌うことに救われたのである。8人時代を黒歴史になんてしない、メンバーが脱退したことも全部が大切な思い出であり『こぶしファクトリー』なのだ、と。
後半戦ラスト3曲の畳み掛けで彼女たちと私達ファンのボルテージは最高潮に達した。ファン投票で堂々の一位を獲得した「明日テンキになあれ」、ライブで盛り上がる鉄板曲「亀になれ!」、そしてもう一つのラストシングルである「スタートライン」で幕は一旦閉じられた。
アンコールで迎えられ出揃った5人は、真っ白なドレスを身に着けていた。辛夷(こぶし)の花が白色なように、ここから新しいスタートを切り何物にもなれる彼女達を象徴しているようだった。ハロプロに一人残る決意を固めた子、芸能界を引退する子、女優としてソロで活動する子、海外留学を決めた子、事務所をやめフリーで活動する子、5人それぞれが別々の道へ進んでいく。メンバー内で一番末っ子の井上玲音さんは涙ながらに語りつつ、リーダーの広瀬彩海さんはぐしゃぐしゃになるほど大泣き、残りの3人は清々しいほどの笑顔だったのが、とても『こぶし』らしいな、と。そして最後の最後に、"笑って、歌って、踊って、跳んで、元気になれる"前向きなナンバーの「シャララ!やれるはずさ」を歌い上げて、最高の大団円とエンディングを迎え解散ライブは幕を下ろした。
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『こぶしファクトリー』ほど熱中させられるアイドルに、今後出会うことはないだろうと思っている。それほどに『こぶし』と駆け抜けた解散までの3ヶ月は、かけがえのない経験になった。彼女たちの放つエネルギッシュさに心を打たれるのは、グループの立場がどん底に落ちる大変な時を経験してもなお、もう一度ステージに上がることを選び、5人に出来ることを磨き続けたストイックさを感じるからだと思う。本物の暗がりを知っているからこそ、明るく輝き続けることが出来るのである。
これから先『こぶしファクトリー』が復活するのかしないのか、それは誰にもわからない。しかし彼女たちにとって、今がその時だというタイミングさえ揃えば、必ず5人で集まってくれるような気がする。その時がいつきてもいいように、準備だけはしっかり整えておきたい。こぶし組として彼女たちを出迎えられるように。
こぶしファクトリーに出会うことができたのは、かけがえのない財産です。
本当にありがとう!