現在、マクドナルドでは今月の13日から全国で劇場公開される『シン・ウルトラマン』とのコラボ商品で、毎年の人気メニュー「チキンタツタ」を販売している。ウルトラマンがこうした大規模なプロモーションを行っていることに驚きを覚えてしまうというか、『シン・ウルトラマン』の公開も差し迫っている実感とともに、「ここまで来たんだな……」という感動すら抱いてしまう。
そして個人的にいうと、マクドナルドとのコラボそれ自体にも感慨深いものがある。
なぜなら私は大学生活の四年間、マクドナルドでアルバイトをしていたからだ。
大学生のするアルバイトといえば、居酒屋やレストランなどの飲食店、コンビニの夜勤など、時給が高いバイトを選ぶ傾向が強いように思う。生活費を稼ぐため、サークルや部活動のため、趣味や遊びに使うため…、学生生活と両立させるためにも、出来る限り少ない時間で収入が多く見込めるバイトを探すだろう。そんな中で『マクドナルド』は飲食店でありながら時給はその県の最低賃金に設定されているし、なんとなく「高校生がするアルバイト」というイメージが強いんじゃないかな、と。
それなら、なぜ当時大学生だった私はマクドナルドをアルバイト先に選んだのか。
当時の思い出も交えつつ、働いていた側から見たマックのアルバイトってどんな感じなのかを振り返ってみようと思う。バイトを考えている人や、マックの裏側に興味のある人はぜひ参考にしてもらえると幸いです。
これを読むとマクドナルドの見方が、ほんの少し変わるかもしれない。
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四年間でお世話になったマクドナルドは、その地域で30年は営業を続けている規模の大きい店舗だった。幼稚園の頃に家族で食べた時も、晩御飯が面倒だからと母親に連れていってもらった小学生の時も、そういえば変わらずに店はあった。歴史が長いということはそれなりの店舗だということも意味していて、ドライブスルーが2レーン備え付けられており、客席は1階と2階合わせて100席もある。近場にマクドナルドがあるならぜひ比べてほしいのだけれど、この規模のお店は早々ない。
2014年
私はバーガーなどを作る厨房のクルーとして採用された。軽いオリエンテーションを終えた後、社員の方に案内されて厨房へ入った。手洗いを終えて少し奥に進み、その”裏側”を初めて見た時の衝撃は、今でも忘れられない。
例えるなら、そこはまさに「戦場」だった。
鉄板には大量のパティが置かれ、肉の焼ける音が響き渡る。ナゲットやチキンは油の海で弾けながら揚げられている。すると突然フライドポテトが出来上がった時に流れるあのメロディーが甲高く鳴り響く。あちこちから様々な音が混濁し、耳に押し寄せてくるにも関わらず、立ち止まっている従業員なんて誰もいなかった。
厨房から怒号に近い声も響けば、カウンターを受ける人の元気な挨拶まで聞こえてくる。あちこちで指示が飛び交ってくる様は、まさに言葉の弾丸だった。「お待たせしました!」と店員さんがスマイルで商品を届けてくれるまでに、ここまでのことをやっているのである。
(バイトデビューする場所を完全に間違えた。帰りたい。)
そう心から後悔したことは忘れられない。
マクドナルドの厨房をご覧になったことはあるだろうか。工場の生産ラインのごとく、商品が一方通行で流れに沿って作られていく。ソースを打ち、具材が入れられ、パティやチキンを乗せてから一気に包んで商品を流す、この流れに逆らうことは決して許されない。他にも肉を焼いたりする“グリル”、ナゲットやパイを揚げる“フライヤー”なども厨房の役目だが、やはりメインはバーガーを作る仕事で、そこをどこまで極めていけるかが厨房クルーの目指すところなのである。
ちなみにバーガーを作る仕事は“アッセンブラー”と呼ばれている。
(↑ビックマックの製作工程がクルー視点で撮影された映像。箱は最適な場所にセットし、均等にレタスを乗せ、左手にピクルス右手にチーズ……といった感じ。こういうのが好きな人にはたまらない。)
実のところ、中学から高校の間で数えるほどしかマクドナルドへ足を運ばなかった私は、当時どのようなメニューを販売しているのか全くの無知だった。無論、バーガーの作り方を覚えることが非常に困難だったわけで……。
このメニューのパンは焼くのか蒸すのか、オニオンは先に入れるのかどうか、レタスは何gだったか、どのソースを最初に入れるのか……、もう単純にパニックである。大学生にもかかわらず、かなり出来が悪かったのだろう。新人なら一ヶ月あればだいたい覚えるところを、恐らく三ヶ月くらいかかってしまった。「お前、何が出来んねん。」と当時の店長に言われ、こんなバイトは三ヶ月で辞めてやろうと心に固く誓っていた。(ちなみにその店長は私が入って四ヶ月ほどで異動になった。)
辞めようかどうか決めかねていた三ヶ月後。
とあるニュースが世間を賑わせた。
ご存知の方も多いと思うが、マックが取引している中国の精肉工場で、賞味期限切れの鶏肉が使用され、日本で出荷されていたというニュースだ。隠し撮りの映像が世間を騒がせ、マックの社長が会見するも謝罪をしなかったことが火に油を注ぎ、今までに無い大バッシングを浴びることになった。その余波は働いている店舗にも当然届いてくる。
平日の夜も土日のお昼もほとんどお客さんは来ないし、看板メニューのチキンナゲットは全く売れなかった。子供たちの大好きなハッピーセットですら売れない。あれだけ慌しくて、恐怖すら抱いた厨房が静まり返っている。嫌だったはずなのに、どこか寂しさを感じてしまった。
大学の友人にも、「マックはもう終わったし、辞めるなら今だよ」的なことを言われたのだけれど、(ここで辞めると世間的な流れに乗って逃げたみたいになるし、俺が辞めるのはそういうことじゃないんだよ。)という謎のプライドが働いたこともあって、この一件のほとぼりが冷めた後に、正々堂々辞めてやろうと考えていた。今思うと、これが分かれ道だったかもしれない。
すると、ほんとに突然というか、商品の作り方も店での動き方も、スーッと頭に入る瞬間がやってきた。そこからは流れるように仕事を覚えることが出来た。覚え始めれば出来ることが増える、出来ることが増えれば楽しさが分かってくる。
パンを焼く数秒の間に肉を焼き、肉を焼いている数十秒間以内にバーガーを仕上げて、焼き上がった肉をトレーに入れる、という流れも気持ちよくきまると最高だし、隣の人と協力してバーガーを作る時も、息が合ってめちゃくちゃ早く仕上がると気持ちいいんですよね。いかに最短で綺麗に効率よく仕上げるか、そこに楽しみを見いだせる人にとってマックの厨房は、最高の環境だと思う。
(↑ニコニコ動画時代からファンのきこりさんが載せている演奏動画です。)
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2015年
大学の二年生になった。掛け持ちで行っていた他のバイトをやめて、完全にマック一本でバイトをやっていくことにした。三ヶ月で辞めようと思っていたあの頃の自分からは想像できない結果だろう。
マックはシフト制を採用していて、一週間ごとに出勤可能日を提出する。他のバイトだと一ヶ月分をまとめて出したり、前半と後半に分けて提出したりなど様々だと思う。しかしマックは希望のシフトを二週間前に提出するので、試験や急な予定が入ってもギリギリで予定の調整を行いやすいのは、学生や主婦の皆さんにとって心強いのではないかと思う。
ちょうどこの頃に、「カウンターをやってみない?」と言われた。(マックのカウンター??絶対嫌だよ……他のレジ打ちとは訳が違うじゃん………)と、ことごとくスルーしていたのだけれど、掛け持ちしていたのがコンビニ店員だということがバレてしまい、止むを得ずカウンターを覚えることになった。
一度でもマックへ行ったことがある方はお分かりだろうと思うけど、マックのカウンターは他の接客業と少し違う。まずは笑顔、そして元気な挨拶、お辞儀の角度から手の添え方、言葉遣いに至るまでその隅々まで教わる。たかがアルバイトされどバイト、という言葉通りマックではその垣根に関係なく、接客する上で大切なことを最初から学んでいく。驚いたのはテーブルを拭くクロスでも、机にはピンク色でイスは緑色のものを使い分けなければならないということ。
(↑美人のユーチューバーの方だったので貼りました。)
そしてカウンターはレジ打ちと挨拶だけではなく、ドリンクやデザートも作らなければならない。たいていはカップに氷を入れてボタンを押せば自動で抽出されるし、作り方が複雑なものはなくて、これはすんなり覚えることが出来た。しかし、これにもスピードが求められる。カップに氷に正確な量を一回で入れたり、ジュースは自動抽出されるので一度に複数のドリンクを作らなければならない。
これを極めると、コーラとファンタを作りながら、マックシェイクを生成しソフトクリームを巻く、とかを同時進行で行える。わずかな隙間時間も見逃さず、どれだけ商品をたくさん生産できるか、結構頭を使う仕事だった。
そして前に立つ仕事で一番難しいのは、やっぱりドライブスルーだ。お客さんは車に乗ったまま買って帰るので、ほぼ100%テイクアウトの状態で商品を渡すことになる。商品は袋に入れ、作ったドリンクを詰めるためのリッドを用意し、おもちゃやその他の用品を忘れずに入れなければならない。どの商品に何が必要なのか、これを間違えると入れ忘れとなってしまいクレーム発生の一因にもなってしまう。
ぶっちゃけると、休日のお昼時以外のドライブスルーは、ほとんどが注文を取りながら商品の渡しの準備を一人で行っているので、ときどき聞き間違えたりしても多めに見て欲しいな……と思っていた。
そんなこんなで自分は、カウンターに続きドライブスルーまで覚えてしまったので、数少ないスイッチヒッターとなってしまった。メジャーリーグで活躍する大谷選手の大変さは、手にとるように理解できる。(比ではない)(ごめんなさい)(ちなみに大谷選手は同い年)
この当時は店舗に人が足りていなかった時期だった。アルバイトに学生が多いと、卒業のタイミングも重なって入れ替わりの時期がやってくる。毎年新しい人員が採用できればいいのだけど、複合的に色々な理由が組み合わさって、人がなかなか集まらない時期もやって来てしまうのだと思う。
そうした人員不足を補うために、奔走した一年だった。ただのアルバイトなのによく頑張っていたなあ……(遠い目)。平日は朝の6時~8時30分までドライブスルーで働いた後に大学へ行き、帰宅してから18時〜22時までカウンターで働く。土日は14時〜22時でフルタイムで働く。そんな生活を三ヶ月ほど続けたこともあった。(我ながらよくやったなあと思いつつ、おかげで二年生の春学期の成績は散々で、22単位中10単位(5つの授業)も落とすことになったのはここだけの話である。)
この年のマクドナルドは試行錯誤の年だったな、と今ではそう感じる。世代を問わず野菜不足を補えるとして発売された「ベジタブルチキンバーガー」や、人気3品に野菜を追加でトッピングした「フレッシュバーガーシリーズ」など、いわゆるヘルシーな健康食路線をマクドナルドでも走ってみたのだろう。たしかに美味しかったし悪くはないんだけどリピーターは増えないだろうな……と。そもそも健康食を求めてマクドナルドには行かないだろうし、言い方がアレだけどあの不健康なものが食べたいわけで……。そこがマクドナルドの魅力なのだとあらためて認知されることになった。
新登場「ベジタブルチキンバーガー」は昼マック(平日限定10:30~14:00)ではセットで450円!色とりどりの野菜を練りこんだチキンパティに特製ベジタブルソースでさっぱりと♪
— マクドナルド (@McDonaldsJapan) 2015年6月9日
http://t.co/CLfJqu1OLH pic.twitter.com/Xh9iJIBHKl
そんな中、9月が近づくと先輩達が口々にこんな事を言ってきた。
「月見はヤバいから、覚悟して」と。
月見バーガーとは例年9月になると発売される、マックでも段違いで桁違いの人気メニューだ。お客さん一人当たりの注文数も凄くて、例えば一人で四個買いに来てくれる方もいたり、普段の1.5倍くらいの注文が流れてくるので、家族連れだとそれはもう業務用では……というぐらいの大量オーダーが入ってきたりする。
新商品が発売されたとしても、他のレギュラーメニューはそれなりに売れるのだけど、月見バーガーの時だけは、月見バーガーしか注文がこない。オーダー画面を見ても月見・チーズ月見・月見・チーズ月見……としか出てこない。機械が壊れたわけではないらしい。
(↑ちなみに2015年の月見バーガーはこちら。月見バーガー、北海道チーズ月見、チキン月見北海道チーズの3種類。)
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2016年~2017年
先ほど話したように、店舗にもよるのだけれど、従業員の半分は学生なので、一定の周期が来ると卒業を迎え、新たな新入生が入学と共にマックにも流れてくる。これもお店に依るのだけれど、“卒店式”と銘打たれたイベントが三月に行われる。私の働いていた店舗では例年行われていて、お菓子やジュースを食べながら漫才や一発ギャグをやったり、さながら学生のお別れ会的な感じだろうか、花束の贈呈も行われたりして結構感動的なのである。
そんなタイミングだったことも重なり、大学の三年生に差し掛かろうかとする時に、当時の店長や社員さんから進められて『マネージャー』になった。要はバイトリーダーのようなもので“時間帯責任者”という立場である。店舗に必ず一人、少し違う服を着た人がいると思うんだけど、それがマネージャーである。
主な業務内容としては、レジのお金管理や在庫チェック、従業員への指示を出したり、お客様からの電話対応など、細かなところまで含めると沢山あって書き切ることが出来ない。現場仕事という意味では、社員の人とやっていることは同じなのである。
マネージャーになるのも、実はそう簡単なことではなかったりする。A4サイズで参考書並みのサイズ感のマニュアルを進めていき、食品衛生法の規定やマクドナルドの歴史を学び、先輩マネージャーとの実技演習や、DVDを見ながらの座学など、全て終えるのにざっと三ヶ月はかかる内容量とボリュームだった。
さらにそのマニュアルの仕上げとして、三日間の研修に通わなければいけない。
それが通称“ハンバーガー大学”と呼ばれている。
(↑ふざけてないんですよ!!!!まじの名前なんですよ!!!!)
名前はさておき、この研修ではクレーム対応やプレワークを通し、マネージャーがどうあるべきかを学んでいく。他店舗からも参加しているので、情報交換が行えたり友人が出来るのも面白いところだな、と。そして最後に自分の働く店舗で、店長の上司となるエリアマネージャーの承認を得てから、晴れてマネージャーとなることが出来る。ここまでざっと半年ぐらいで、私は6月ごろにマネージャーとなることが出来た。
大学生の自分がリーダーとなって、年下の学生ならまだしも、時には一回り年上の大人に指示を出さなくてはいけない。誰も彼もが素直に指示を聞いてくれるわけではないので、「じゃあどう頼めば聞いてもらえるだろう」「この人の性格ならこう言うべきかなあ」と、各々に合わせたやり方を見つけていく試行錯誤の日々だった。
思い返してみても大変だったと思うのが、クレーム対応だ。
クレームと言ってもそのほとんどが、商品の入れ忘れである。商品を袋に入れてお客様に渡すのはやっぱり人間なので、常に気をつけていてもこうしたミスは発生してしまう。客の立場からすれば楽しみにしていた商品が足りなかったり、それが原因でお子さんの機嫌を損ねてしまうのでたまったものではない。かといって従業員からしてみても、入れ忘れを好きで発生させる人なんていなくて、忙しい中の一瞬気が抜けた瞬間にミスってしまうこともある。そんな両者の間に立って、問題を解決しなければならない。
商品を届けるために自転車に乗って片道40分かけて走ったり、電話口で「○すぞ!!」と怒鳴られたり、謝罪に行った家先でめちゃくちゃ怒られることもあった。(入れ忘れたのは俺じゃないのに、なんでこんな事をしなきゃならないのか……)そんなことばかり考えていたし、従業員にあたっても仕方がないからこそ余計にモヤモヤする時もあった。
ぶっちゃけ、このマネージャーという役目はバイトが抱える仕事量を超えていると思う。業務の持つ責任も大きいし、全体的に大変なことでしかない。それでも、それでも、マネージャーをやっていて一番良かったなと思うのは、プレ社会人の経験を積むことが出来たということだ。
出した指示を聞いてもらう為に皆の避けがちな仕事を率先してやるところを見せたり、頼んだ仕事をやってもらったらすぐにお礼を言う。従業員がミスをする状況を作り出してしまう自分に責任があると考えれば、入れ忘れがないかの確認を一緒に行えばいいし、ミスが多い子に先輩をつけて改善点を考えてみる。
書き出してしまえば当たり前のことなんだけど、どんな状況や問題にも前段階から逆算して考えれば何をすべきかが見えてくるし、ほとんどは未然に防ぐことができる。これを学生の時に体感できたのは自分にとって財産だったなあ、と。
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なんだか思い出話ばかりになった気もするけど、マックのアルバイトを裏側から語ってみました。これを読んで「マックのバイトやってみたいなあ」とか「お店に行った時の見方が変わりそう」と、少しでも思ってくれれば幸いです。現在マックで働いているアルバイトの皆さん、大変だし辛いことも多いけどその経験は絶対自分の役に立つから頑張ってください。応援してます。
そういえば、どうして『マクドナルド』をバイト先に選んだのか。
これについて答えていませんでしたね。
答えは一つです。
家から近かったから。(徒歩5分)