本当の戦いはここからだぜ! 〜第二幕〜

好きなものをどんどん語ります

人生で一度も「スラムダンク」に触れてこなかったミリしらが観た『THE FIRST SLAM DUNK』の感想。

 

 

(この感想記事は人生において「スラムダンク」を全く読んだことのない人間が、『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞した感想です。そんな人間がここにはいるんです。そんなやつがあの映画を観たらどうなるのか。ご注意下さい。)

 

 

 

 

これまでの人生で「スラムダンク」を全く通らずに生きてきた。

 

いや、敢えて通ってこなかったと言ったほうが良いのかもしれないが、もちろん全く知らなかったわけではない。自分の中にある「スラムダンク」の知識とは・・・

 

 

バスケットボール部の漫画
赤毛の桜木春道が主役らしい("花道"な)
・「君が好きだと叫びたい」のOPが超有名
・流川というイケメンがいる
安西先生の名言が結構有名らしい
・でもストーリーを何も知らない
・原作を1ページもめくったことがない
・もちろんアニメも全くの未視聴

以上の通りである。

 

この話をすると「お前は一体これまで何をしてきたんだ・・・どうすれば「スラムダンク」を通らずに生きてこれるんだ・・・」という顔をされる。

 

一応、自分なりの理由はある。

 

まず、バスケットボールという競技が超苦手。もともと球技は苦手だったが、あらゆる球技の中でトップクラスに、出来ない。体育の授業では必ずバスケを取り扱うタイミングがあったので、もちろん人並みに簡単なルールは把握している。しかし、ボールを地面にバウンドさせながら走ることが出来ないし、自分の身長よりも遥かに高いゴールネットに向けてシュートを打って入った試しがない。皆がやっているレイアップを真似てみても、ボールを離すタイミングとジャンプが絶妙に合わない。体の動かし方が分からなかった。

 

そして、中学・高校で自分が出逢ったバスケ部およびバスケを楽しんでいる人と、あまり仲良くなかった。むしろ嫌っていたくらいだ。いわゆる”陽キャ”ばかりで、確かにカッコいいし女子にはモテる。ノリが合わないこともあったが、バスケ部の同級生とは全く接点がなかった。彼らが学校の周りを走り込んでいるだけで、軽音楽部の女子が目で追っている。バスケ部がバスケ以外のことをしているのが、そんなに珍しいのか?陸上部の俺はこれの五倍は走っているんだぞ?お前ら1キロ4分ペースをウォーミングアップで12キロ走れんのか?なんなんだよマジで・・・というちっぽけな嫉妬を胸に、バスケというものへの拒絶感だけが育っていった。

 

だからスラダンを知ってしまうと、負けを認めてしまう。バスケを認めてしまいそうになる自分が嫌で、「スラムダンク」の話になると話題を避けようとした。見るように薦められても「そんなメジャーなやつ、興味ないねん。マイナーでも俺にとっておもろい漫画とかやっぱ探したいやん?」って逆張りムーブを決めていた。ダサすぎる。

 


前提が本当に長くなってしまい申し訳ない。そうした極めて個人的な経験と、偏りに偏りまくった偏見の塊を紐付けて、「スラムダンク」を避けて避けて避け続けてきた人生だった。自分でも「それはダメだなあ・・・」という認識はあったし「スラムダンク」にとっては完全なとばっちりである。それでもなかなか食指が伸びなかった。

 

 

しかし、昨年の12月にこの映画が公開された。

 

 

 

『THE FIRST SLAM DUNK

slamdunk-movie.jp

 

原作者の井上雄彦が、脚本と監督を兼任するという気合の入りっぷり。キャストが一新されるという情報が遅すぎたことで、プロモーションが少し炎上気味になっていたが、旧作を知らない自分にとってはむしろ好都合だった。公開から一ヶ月近く経つにもかかわらず、高評価が続々と流れてくるのも、自分の背中を後押ししてくれた。しかし気を抜いてはならない。どんな作品も噂や評判だけで知った気になったところで、最後は自分の目で観て確かめるしかないのである。

 

ここしかなかった。
ここが自分の「スラムダンク」に向き合うときだと思った。

 

 

そして・・・新年初めての映画館へ足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

面白すぎた。

 

あまりにも、あまりにも、面白すぎた。

 

 

観終わった後に自分の腕が小刻みに震えているのが分かった。スクリーンに集中しながら、思わず握り拳をずっと握っていたからだ。息をすることだって忘れていた。何度も息を止めていただろう。思い出したかのように深く息を吸っても、またすぐに息を呑んでしまう。スクリーンを出て、映画館を後にしても、観終えた直後から様々な感情がどんどん溢れ上がってくる。その感情をどこにおけば良いか分からず、しばらく歩いていた。歩くことしか出来なかった。

 


映画鑑賞を趣味にしてかなりの年月が経つ。特にこのご時世になるまでは年に30〜40本くらいは観ていたので、映画館へもよく通っている方だと思う。もちろん事前に予告を見たり監督やキャストの情報を調べた上で、自分の気持ちを高めに高めまくって劇場で鑑賞するのも楽しい。めちゃくちゃに楽しい。しかし、万に一つ訪れるものがある。全く予測や期待もせずに丸腰で臨むと、それが恐ろしいほど自分の琴線に触れてしまい、「面白い」の感情で自分自身が滅多打ちにされてしまう経験である。思いがけないタイミングで死角から迫り、ノーモーションでガツンとぶん殴ってくる、それこそが最高の出逢いであり最高の映画体験なのだ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※


今回の『THE FIRST SLAM DUNK』は、全国インターハイの一つである「山王戦」を映像化した作品だったとのこと。こうした一つのエピソードを映像化するのは「鬼滅の刃」における無限列車編が顕著だが、あれはリアルタイムに放送される現行作品だったから成し得たことだ。その同じ手法を20年も前に完結した「スラムダンク」で実現できるのだろうか。確かに実現はできる。観客がすでにスラダンを履修している前提で進めてファンメイドに寄せる。それでも充分に箱は埋まるし、ファンの期待値に応える意味では及第点だろう。

 

しかし、そんな甘えた考えに着地しなかった。完全なる初見も、原作既読組も、同じ土俵に上げてみせる。全員でこの「山王戦」を見守る舞台装置を作り上げる。自分がまさに驚いたのは、「山王戦」がいかに天下分け目の戦であったかを、原作を全く知らない自分でも手にとって伝わってくる構成だったからだ。湘北のメンバーたちのキャラ描写、この試合にかける想いや背景、全国制覇した山王がどれほどの強敵なのか、「山王戦」の重みを感じさせる情報量は決して少なくない。なにせ原作でもクライマックスの、最大級に盛り上がるエピソードとのことだ。それを映像・音楽・シーン展開などの”映画”という媒体がもつ持ち味をフル活用しながら、スクリーンで語ってくる。

 


個人的な懸念だったのが、今回の映画はCGアニメを用いていること。映像表現の進歩であり技術の一つとして理解はしているのだが、どうしても苦手な意識を持ってしまっている。予告編を見た時の動きに対する違和感が拭えず、「この違和感が続くと楽しめないだろうな・・・」と一抹の不安を抱えていた。

 

 

全くの杞憂だった。

 

スクリーン上に展開される立体的なコートの実現。その中を縦横無尽に駆け巡る選手たち。ボールを巡って秒単位の駆け引きが行われ、一瞬の隙で攻守が入れ替わる緊張感、ゴールをめがけて一筋に駆け抜けるドリブル、ゴール下からせり上がってくるリバウンドの迫力。どう考えても、実写では再現不可能な映像とそのスピード感に溢れていて、さらに一般的な手書きアニメで描くのは技術的な限界があるだろう。

 

パンフレットに井上雄彦のインタビューが記されている。

 

ーリアルなバスケの表現も本作の大きな特徴ですが、試合シーンを描くうえで、特に大切にしたポイントはなんでしょうか?

 

(井上)すごく細かいところですが足の踏み方や、ボールをもらった瞬間の身体の反応、シュートに行くときのちょっとしたタイミングなど、僕自身が体感として覚えている「バスケらしさ」をそのまま表現することですね。

 

 

ボールを受け取る時の格好や、後ろから見たふくらはぎの膨らみまで、井上雄彦が細かく指示を出していたらしい。これが井上雄彦の実現したかった試合シーンであり、原作を忠実にアニメにした結果が、あの試合シーンだったわけである。バスケの試合を見ている時の臨場感を体現するために、この作品を創るためにはCGアニメしかあり得なかったのだとする説得力が、確かにあった。

 

 

LOVE ROCKETS

LOVE ROCKETS

  • provided courtesy of iTunes

 

 

冒頭からいきなり「山王戦」の試合はスタートし、試合の動きの中で湘北のメンバーがどういう人となりなのかを語っていく。筋骨隆々で少し堅物な一面もあるが彼らの精神的支柱でありキャプテンの赤木剛憲(cv.三宅健太、長身を活かしたシュートを得意とする常に冷静沈着な三井寿(cv.笠間淳、得点圏にポジショニングされ才能を発揮するエースの流川楓(cv.神尾晋一郎)、問題児ながらも恵まれた体型と天性のスキルで活躍する桜木花道(cv.木村昴、そして今回の映画における主人公となる宮城リョータ(cv.仲村宗悟だ。

 

 

「山王戦」を物語の縦軸に据えながら、宮城リョータの生い立ちやプレイヤーとしての歩みを並行して描いていく。原作でも彼のバックグラウンドが描かれてきたことはないらしく、そこが原作ファンにとって新しい視点での「スラムダンク」であり、この映画のエッセンスを担っていたのだろう。リョータのポジションは”ポイントガード”といって、コート上の司令塔とも呼ばれている。ボール運びや指示の系統など、彼の動きが戦局を左右すると言われる重要なポジションだ。コート上で中心にいるリョータが、この映画の主軸にあるドラマを担っていると考えれば、これもまた納得しかない。

 


リョータのドラマには、もちろん泣かされてしまった。空虚になった部屋の描き方であったり、母親やリョータの些細な動き、音楽のメリハリを使って示される虚無感で、宮城家がいかにギリギリで精神的にボロボロであるかが伝わってくる。変に回想シーンや台詞で語らずに、観客の理解力に委ねていく演出は、非常に映画的だった。環境を変えて前を向こうとしても、言いようのない虚脱感でその足を止めてしまう。それでもリョータにとっては、バスケしか無かった。バスケだけが彼の拠り所だった。

 


しかし、この映画の白眉となっているのが、リョータを軸としたドラマが「山王戦」を魅せる為のマクガフィンなのだということ。「山王戦」を一本の映画に仕上げる際に、必ず取捨選択の必要が生まれてくる。誰の物語を骨子にするべきなのか。そこで宮城リョータを中心としたストーリーラインにしたことにより、物語の輪郭がくっきり浮かんできたように思えるのだ。ここが原作を知らないがゆえに比較が出来ずもどかしい。要するに最小限の手数で、最大限の描写が実現しているのではないだろうか。宮城を主役にしたことで、当然彼と接点のある人物が優先的にフィーチャーされる。そこでスポットが当てられた三井と赤木のドラマを掘り下げることで、この試合に命をかける湘北メンバーの覚悟を感じさせてくれるし、インターハイへ進むまでの紆余曲折を語らずとも察することが出来る。そのため、描写としてはかなりオミットされたが、桜木=問題児と流川=天才肌は試合の中でこそ輝くと割り切り、ほぼ人物背景を描かないに至ったのは、英断だったと思う。非常にクレバー。

 


全ては「山王戦」に没入させるため。

劇場にいる者たちを全員、湘北と山王のインターハイ戦の観客にするため。

 


だからこそ、面白すぎるのである。

 

Double crutch ZERO

Double crutch ZERO

  • provided courtesy of iTunes

 

王者山王の圧倒的な試合スタイルに翻弄されっぱなしの湘北。手も足も出せない絶望感が、彼らの息遣いとシューズの摩擦音と共に劇場の音響で伝わってくる。そして静寂。ボールがネットを揺らすかどうかの瞬間に張り詰めたあの空気感。絶対に劇場でしか味わえないだろう。しかし、三井が決めるスリーポイント、桜木の驚異的なリバウンドで少しずつ点差を埋めていく。焦る山王。立場が逆転する。

 

(このままいけば、勝てるかもしれない・・・)と思わず拳を握ってしまう。

 

しかし王者の意地がある。更にその上をいくチームプレイを平然とやってのける。またも突き放される湘北。再び訪れる絶望。もう体力の限界はとっくに過ぎている。しかしギリギリで踏ん張る。ギリギリで耐える。亡き兄と特訓したリョータのドリブルが活路を開き、限界の中で覚醒した流川が駆け抜ける。そして己の弱さを超えた赤木が真価を発揮する。コート上で繰り広げられる意地と意地の張り合い。往生際の悪いやつが最後に勝つ。この時点で今自分が映画を観ていることなんて完全に忘れていた。湘北と山王の試合を観ていたのである。

 

桜木が言う「オレは今なんだよ!!」という言葉に、自然と目が滲む。この一瞬のために全てをかける。青春をかけて全力を注げるって、なんて凄いことなんだろう。試合は残り30秒、息継ぎなんて出来なかった。拳を握りしめていた。瞬きも許されなかった。一点差を死ぬ気で守る山王。最後まで諦めない湘北。怒涛の書き込みと緊張に満ちた劇伴、スクリーンから押し寄せるクライマックスの応酬にただただ圧倒。両者ともにゴールにあともう一歩入らない。流川にボールが回る。なんとパスを出した。桜木だ。残り0秒。「左手は添えるだけ」ボールが宙に舞った時の沈黙。観客が全員固唾をのんで見守っていた。

 

 

 

そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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スクリーンを出た足でそのまま物販に行って買ったパンフレットを、今は読み漁っている。近いうちに品薄状態の「THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE」も手に入れたいなと思っている。本当にしょーもない偏見で避け続けていた「スラムダンク」に、このタイミングで向き合えたこと、そして巡り会えたことに感謝したい。こんなにも面白くて、こんなにも熱くなれる漫画があったなんて。おそらく原作にもついに手を出すだろうけど、今はまだ少し『THE FIRST SLAM DUNK』の余韻に浸っていたい。これが俺にとって”初めて”の「スラムダンク」なのだから。

 

 

第ゼロ感

第ゼロ感

 

(↑原作『SLAM DUNK』を読み始めたので、ここに感想をまとめてみました。)