感想『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』刮目せよ!男たちの熱き絆が旋風を巻き起こす大傑作!

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映画館で予告編を見た時に(それなりにストーリーがあって迫力のあるカンフーを見ることが出来ればいいなあ〜)くらいに思っていて、そこそこの安定感と安心感を求めるような心持ちだった。しかし本編でお出しされたのは、想像を超えてくる大傑作だった。今年観た映画の中でこれがベストだろうと、今の時点で自分は本気でそう思っている。

 

この映画は1980年代の香港を舞台にしたアクション大活劇で、香港映画の歴代興行収入でナンバーワンを更新した大ヒット作品なのである。香港へ密入国した青年ロッグワン(演:レイモンド・ラム)黒社会の組織に目をつけられてしまい、追い詰められた後に”東洋の魔窟”九龍城砦へ逃げ込む。そこで出会った仲間たちと友情を深め居場所を得ていくのだが、城砦を巡る因縁の抗争は激しさを増し、ロッグワンは自らの運命をかけた決死の戦いへ身を投じていく。

 

九龍城砦」とは1990年代初頭まで香港の九龍地区に実在していた巨大なスラム街のことである。規制を度外視したであろう高さのビルが無数に立ち並ぶため、一日中日の当たらない部屋やそこら中に薄暗い路地裏が存在する。生活に必要な電話線やケーブルは無造作に敷かれ、錆びついた蛇口の共用スペースで住民は水を調達している。衛生環境も不十分で決して住み心地が良いとは思えない環境だが、確かにそこには生活があり人々が暮らしていた。

 

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この映画のもう一人の主人公ともいえる存在が、物語の舞台となるこの「九龍城砦」である。実際にセットを組んで構築された城砦の内部は細部の細部までこだわり抜かれており、まるで一つの社会が形成されているかのようだった。縦横無尽に入り組んだ通路を挟んで様々な商店が立ち並び、奥に進めば進むほど迷宮入りしてしまいそうになる。何度か挟まれる俯瞰で撮られた城砦内部のショットも非常に決まっていて、九龍城砦が一つの画として主人公たりえる存在感を放っていた。

 

そんな九龍城砦の住民たちの優しさに触れて、ロッグワンの孤独が氷解していく温かなドラマが本当に素晴らしかった。城塞に住む人々いや住まざるを得ない人々は、誰もが皆事情を抱えている。だから助け合って共に手を取り合い生きていこうよ、という普遍的で真っ当な人情が描かれていく。そんな当たり前の事が当たり前とはいえない時代だからこそ、飲み物を分けてくれた女の子に涙を誘われ、お年寄りに優しく声を掛ける若者たちが微笑ましく、早口で調味料を教えるおっちゃんに思わず笑ってしまうのだろう。

 

そしてロッグワンが城砦の住民たちに認められ居場所を得ていく過程が、テンポよく且つ丁寧に描かれていく。実直に仕事へ取り組み、子どもには優しく、不届き者には天誅を下す。そんな彼と価値観を共にした仲間達と絆を深め、彼を受け入れた城砦のボスから優しさを教わる。そんなドラマパートで一番泣けてくるのが、ロッグワンが城砦で得た仲間たちと麻雀を囲むシーンである。居場所を持てなかった彼が自分の全財産をさらけ出せるまでになったのだとグッとくるし、そんな彼らの友情をいつまでも見ていたいなと思わせてくれるのだ。

 

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今作の肝になるのはやはりアクションである。アクション監督を務めたのは谷垣健治。あの実写「るろうに剣心」「キングダム」シリーズで魅せた超人的なアクションを手がけた第一人者である。氏はジャッキー・チェンに憧れて幼い頃から空手やカンフーを学び、業界入りするために単身で香港へ。様々な紆余曲折を経験した後に数多くの映画やドラマのアクションを手がけてこられた。日本でその名を轟かせるよりも以前に諸外国の作品に多く関わっていたため、国内で認知された時には既に逆輸入の状態だったのだ。

 

谷垣健治が手がけるアクションの特徴は、まるで二次元から飛び出してきたかのようなスピーディでアクロバティックな動きを体現するところにあると感じている。実写「るろ剣」がまさに顕著だったように、手数の多い動きを緻密に重ねつつ、更に速さを上乗せしたアクションは観客に考える暇すら与えず圧倒し続ける。もちろん今作でもそれは健在で、氏のカンフーへの大きすぎる愛が迸るほどに感じられた。

 

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そんな谷垣氏が手がける今作のアクションは、舞台となる九龍城砦のロケーションを活かし、パルクールを取り入れた多様なバリエーションで披露される。縦と横に入り組んだ城砦を動き回って展開されるクライマックスのチェイスシーンはまさにその骨頂で、城砦を隅々まで映してくれるのも眼福でしかなかった。

 

また次々に披露されるアクションの中でもドラマが語られるため、上映時間が約2時間にも関わらず濃密なドラマが展開されていく。例えば人が一人やっと通れるような狭い通路でロッグワンとソンヤッ(演:テレンス・ラウ)が初めて拳を交えるシーン。序盤に描かれるこのシーンが巧みなのは、テンポよく導入を進めながら九龍城砦の構造を端的に描きつつ、その中で築かれたヒエラルキーをも示しているところ。

 

また今作には旧世代と新世代への継承というドラマの軸もあり、旧世代から続く闘争の歴史が思わぬ形で新世代に降り掛かってくる。そのため登場人物が多数登場するのだが、各々にしっかりと個性が付与された上でアクションに反映されているのが実に上手いなあと感じた。このおかげで名前が分からなくとも印象には残るキャラ造形になっていたのではないだろうか。

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旧世代は己の拳と脚を駆使した拳法で圧倒し、無敵の強さを誇る。いかに裏社会をのし上がって来たのか、握り締めた拳が何よりの証明だった。一線を退き身体はもう……と思ったら有り得ない程に強いのである。御年73歳のサモ・ハン・キンポー、んなアホなと思ったがそりゃサモ・ハンだから強いに決まってる。まじで何であんなに動けるんだよ。

対する新世代はそれぞれが刀やナイフ、武器を持ちながら必死に食らいついていく。それでも旧世代から互角以上に攻め込まれるが、体力の差と泥臭さでロッグワンがギリギリ競り勝つという、戦いの中にもロジックが組み込まれているのが堪らなく良かった。ちなみに仲間同士で使用する武器を戦闘中に交換するというシチュエーションまでちゃんと描いてくれる。

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ここまでアクション映画でありながら、丁寧にかつ繊細にドラマを描ききっているが、本当に素晴らしかったのは終盤の展開だ。それは最終決戦に向けて主人公たちの身辺整理がきちんと描かれたことである。物語の終盤、九龍城砦を敵に奪われ占拠されてしまい、生き残った仲間たちも満身創痍の状態。そしてロッグワンにも九龍城砦へ戻る意味が無くなってしまった。それでもなぜ九龍城砦に戻るのか。彼にとって城砦の人々とそこで過ごした日々が、どれほど大きかったのか。このエモーショナルなドラマがクライマックスの大決戦に幾重にも重なって繋がっていく。

 

そしてクライマックス。城砦を取り戻すために集う仲間たち。大乱戦を繰り広げる1分1秒全てが見どころで、男たちの熱い戦いに自然と涙で目が滲む。城砦のNo.2であるソンヤッがバイクで突っ込みナイフで切り込んでいく姿があまりにも良すぎた。惚れた。そしてサップイー(演:トニー・ウー)は身体能力を活かしたアクロバティックな刀捌きで敵を翻弄し、唯一武器を持たないセイジャイ(演:ジャーマン・チョン)は腕っぷしの強さで片っ端から敵を投げ飛ばしていく。もうとにかく全員に見せ場があり痺れる程にカッコよく、劇伴を務めた川井憲次サウンドが最終局面をどこまでも盛り上げていく。そして谷垣アクションの真髄ともいえる4対1のラスボス戦はまさに圧巻。この時に城砦が巻き起こす"旋風"をぜひ劇場で体感してもらいたい。

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邦題を和訳すると『黄昏の戦士達』、黄昏とは夕ぐれ。盛りを過ぎ、勢いが衰えるという意味があり、それは解体される運命にある九龍城砦のことを指すのだろう。時代の変遷と失われた城砦へのノスタルジーは、彼らにとっての青春の1ページとして刻まれる。その美しさと儚さを映し出す夕焼けの温かな光で幕を閉じるあのラストカットを、これからも思い出すのだろう。

 

どうか、この映画がこれからも口コミで大ヒットしますように!!!

 

風的形狀

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  • 岑寧兒
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