長年仮面ライダーを追っている身として、襟元を正し気合を入れて臨んでしまうのが夏映画である。幼少期に観た「EPISODE FINAL」「パラダイス･ロスト」に頭をぶん殴られて劇場を出た思い出が脳裏にこびりついているため、どこかでそれを追い求めて、劇場へ足を運ぶ度に「なんとかぶん殴られたい」と期待してしまう自分がいるのだ。
放送スケジュールの改変が発生したため「ダブル」以降の作品における夏映画は、TVシリーズの終盤と重なるため作品の総括的な役割を担うことが多くなってきた。平成第1期では最初期の撮影と劇場版の撮影工程が重なっていたため、夏映画の演技感に初々しさが残っていたが、第2期になるとキャスト陣の演技にも脂が乗ったタイミングになるため、作品内容の重厚さがまた変わってくるのである。
そんな今年度の仮面ライダーである『ガヴ』が夏映画にどんな作品をもってくるのか。TVシリーズの終盤に向けて何を描くのか、観定めるために劇場へ駆け込んでみたのだが……。
※以下「仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者」の内容に触れます。
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『映画 仮面ライダーガヴ お菓子の家の侵略者』近年の夏映画においてトップクラスに面白い傑作だった。異世界転生の番外編的な展開ながらも「これが観たかった」という期待に堅実に応えつつ、作品のエッセンスをギュッと詰め込んだドラマとアクションシーンの連打が圧巻すぎた。めっちゃ良かったなあ。 https://t.co/P4DB4edT9I
— かずひろ (@kazurex1215) 2025年7月27日
近年の夏映画においては、間違いなくトップクラスに面白かった。ちょっとまあびっくりした。本編の世界観と違う番外編ながらも「こういうのが見たかっっった！！！」という期待に堅実に応えつつ、『仮面ライダーガヴ』という作品の核になるテーマを抽出したドラマとアクロバティックなアクションが見事に融合した大傑作だったのである。
突如現れた謎の扉に吸い込まれてしまい、”闇菓子”が存在しない並行世界に迷い込んでしまった人間とグラニュートのハーフであるショウマ（演：知念英和）は、そこで記憶喪失の青年タオリン（演：中島颯太）と出会い、彼が何者なのかをたどる記憶探しの手伝いをすることになるのだが、ミューターの王を名乗る謎の男カリエス（演：世界）が突如出現し、平和な世界は崩壊し始める。
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「もしも闇菓子が存在しなかったら・・・」という異世界のIFルートが舞台になるのだが、本編では決してありえないからこそ劇場版でしか見られない構図がたくさんあり、それが即ち観客の見たかったものに置き替えられるため、満足度が大変高かった。特に本編では相対する敵組織のストマック家の一族が、純粋にお菓子制作に励んでいる姿はずっと見ていたくなるキャラ造形だった。CMでも注目されていたストマック家の勢揃いシーンは正直ファンサービスの域を出ないのは確かなのだが、TVシリーズの彼らが敵ながらに魅力的に描かれているという堅実な土台があるからこそ、IFルートになった時のギャップが面白くなる証左だと思うので、この活かし方は”勝ち”なのである。
主要キャラクターたちの異世界におけるキャラ解釈も納得だった。ヴァレンこと辛木田絆斗（演：日野友輔）はフリーライターにはならず配達の仕事で生計を立てており、存命の母親と仲良く暮らしていた。そしてラキア（演：庄司浩平）ももちろんヴラムには変身せず、ストマック家に執事として仕えて弟のコメルと仲良く暮らしていた。彼ら二人の人生を狂わせた出来事がどちらも闇菓子に起因しており、その悲劇を経験しなければ幸せな人生を歩めていたことが証明されたので、悲しみと喜びが両方とも胸にくる感じで・・・。それでも困っている誰かを救う為には仮面ライダーの力が無くても立ち向かう二人の善性が描かれたのも良かった。こういうのが見たくて、ちゃんと見ることができた嬉しさである。
ここまで描かれてきた事が何よりも証明しているように「闇菓子が存在しない」＝「ショウマは存在しない」＝「誰もが幸せに生きている」という残酷な事実がそこにはあり、ショウマという主人公に別世界という方法で本編1年間分の”業”を一手に背負わせるのは流石の香村純子脚本である。しかし自分の映し鏡ともいえるタオリンというキャラクターを通して、ショウマがお菓子に出会って得た人間界での喜びや楽しさを、今度は貰う側から与える側に回ることでタオリンに繋いでいく。逆境の中でもショウマは他者の幸せを心から願い喜ぶことができるから人間性をあらためて描きながら、それが結実したものが「お菓子の家」だったというのは、非常に美しいドラマ構成である。ずばり本編が終盤に近づくタイミングでそれが本作に描かれた理由はここにあるのではないかと感じている。
『ガヴ』の見どころの一つとしてメイン監督の杉原輝昭がこだわったアクションシーンの数々である。ロケーションにおける縦の線と横の線を大きく使ったアクションと、氏が影響を受けていると公言したゲーム映像のようなアクロバティックなCGは劇場版でも冴え渡っていた。細かなギミック面でいうとヴァレンとヴラムがTV本編で一度も見せた事のなかった武器や戦い方を見せてくれたのは嬉しかったところ。
そんな杉原監督が作り出すアクション映像の真骨頂ともいえるのが本作のクライマックス。ガヴの本作限定の新フォーム「ガヴ ヘクセンハイム」と仮面ライダーカリエスの最終形態「カリエスC3」の決戦シーンである。この最終決戦が本当に本当に本当に素晴らしかった。氏がこれまで積み重ねてきたスキルを全て乗せまくったアクションシーンのオンパレードと、スクリーンいっぱいに繰り出されるスピード感の溢れるCGと手数の多い近接格闘戦が交互に押し寄せてくる最高の滅多打ち。そこへ流れるのが劇伴「最後の審判」を劇場版限定でアレンジした『YUMMY！~Candy Blaze - with Taorin Arranged by Go Sakabe.』がフル伴奏される。
『YUMMY！~Candy Blaze - with Taorin Arranged by Go Sakabe.』冗談抜きで仮面ライダー史上(自分の中で)最高の劇伴に匹敵するレベルで感動しており、劇場で鑑賞して以来毎日欠かさず聴いている。作曲を務めるのは本編と同じく「ウルトラマントリガー」「仮面ライダーゼロワン」でおなじみの坂部剛氏。氏の制作する楽曲は厚みのある演奏から醸し出される荘厳な曲調とダイナミックな疾走感が特徴で、曲を聴けば自ずと作曲者が誰か分かるタイプの人である。
『ガヴ』本編で幾度となく使用されている劇伴「最後の審判」は、ガヴがグラニュートを倒す前の一連のアクションシーンと最後に悔い改める覚悟があるのかを問う問答の場面で使用されている。この「最後の審判」が大前提として最高の楽曲なのは言うまでもないが、そちらをベースにアレンジを加えつつ、転調とリフレインを交互に組み合わせてあの"大サビ"に向けて加速していくこの楽曲は、まさに『ガヴ』楽曲の集大成ではないだろうか。溜めて溜めて溜めてショウマが「どうする？」のセリフを言う時にあの大サビを爆発させる曲構成が、痺れるほど滾るほどに格好良かった。本当に堪らず「最後の審判」を致死量で浴びられて最高だった。
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「最後の審判」のメインテーマが流れつつ終盤のフレーズを絶妙に外しながら転調し、さらにアレンジの遊びを加える芸当が素晴らしく、見事なまでに”焦らされる”のである。あの大サビを浴びたい欲を徐々に刺激しながら、坂部氏お馴染みの荘厳な音の厚みでぶん殴られ続ける。いいぞもっとやって下さい。そして間奏のギターリフに痺れる。
これがバックグラウンドに流れながら、ガヴとカリエスが杉原監督の作り出すアクロバティックアクションで壮絶に打ち合う。高層ビルを急降下して窓ガラスや外壁を存分に壊しながら殴り合い、貨物車内でもみ合いになる遊びも挟みつつ、拮抗した二人の戦士が己の力をぶつけつつ紙一重で勝負が決まりそうなあの緊迫感に、思わず拳を握ってしまう。エネルギーをチャージした攻撃が左脚、左腕、右腕と移りながら激しく蹴り合いと殴り合いを続ける。それをこの劇伴で盛り上げるんだから、そりゃもう否が応でも滾らずにはいられないのである。
終盤に向けて一旦"静"のターンに入る緩急のつけ方も素晴らしく、ここでバイオリンのソロ演奏で奏でられる儚さと物悲しさの中に美しさを感じる旋律にどうしても涙を抑えきれなくて。劇中でもここでタオリンの幻影がショウマの背中を支え一緒に反撃に転じるのだけど、それはもう当たり前に毎回涙ぐんでしまう。そしてこれを越えると、ようやく本当のクライマックス。何度も焦らされてきたあの大サビが、ここで満を持して流れる。あの聞き馴染んだ旋律が最後のライダーキックに合わせて流れている状況がアツすぎてテンションがどうにかなってしまい、魂が震えるというのはまさにこのことなんだと確信した。
TV本編も残り数話のクライマックス。『ガヴ』の物語も最高潮を迎えるため、しっかりと最後まで見届けていきたい。そしてぜひ劇場であなたにも「最後の審判」を致死量で浴びていただきたい。そんな願いを込めて今回の感想を締めくくりたいと思う。
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