感想『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』これは命を絶対に諦めない覚悟と信念の物語。

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『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』とは2021年7月から9月まで「日曜劇場」の枠でTBS系列で放送され、東京都を舞台に重大な事故や災害現場に駆けつけて、最新医療機器やオペ室搭載のERカーで負傷者に迅速な救命処置を施すプロフェッショナルチーム「TOKYO MER」の活躍を描いた医療ドラマである。放送終了後の人気も凄まじく、2年後の2023年には劇場版1作目が公開し、その劇場版とTVドラマを繋ぐSPドラマも放送された。そして2025年現在、劇場版第2作目となる『南海ミッション』も8月1日から公開されており、今もなおロングラン上映されている。

 

その『南海ミッション』が公開される時に、TVドラマの続編がまた公開されるのか〜という程度の認識だったのだけど、鑑賞された方の感想のどれもが絶賛の嵐だったので、せっかくだし見てみようかと思い視聴し始めることにした。

 

 

 

 

 

 

喜多見チーフ!!!!!!!

って叫びたくなるほどめちゃくちゃ面白かった!!!!!!!

 

 

TOKYO MER

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どんなに絶望的な状況にあっても、目の前の命を救うことを決して諦めないTOKYO MERの活躍に、毎話必ず手に汗を握りハラハラさせられ最後には泣かされてしまう。まさに「待っているだけでは救えない」を体現するチームワークと高速で施される救急措置のクオリティがドラマとは思えない程に見事だった。

 

特筆すべきはTOKYO MERのメンバーが施す救急措置のシーンだろう。専門用語が無数にそれも矢継ぎ早に飛び交い、各々が正確に素早く患者への措置を行う。視聴する際は日本語字幕をONにしていたけど、それでやっと追いつく事ができるほどの膨大なセリフ量である。キャスト陣はあの難しい専門用語と量をよく覚えたんだな……と感嘆するばかり。

 

また車両に設置されたオペ室での手術シーンは、その手さばきもプロフェッショナルに溢れており、これも実際に手術をしているとしか思えなかった。ピンセットと糸を使った素早い縫合や、電メスと吸引器を使ったリアルな切開など、キャスト陣の努力の賜物である。医療ドラマをそこまで多く見た事がないため十分な比較は出来ないかもしれないが、自分のようなど素人が見た時に感じる医療ドラマのリアルさにおいては比類のないクオリティだったと思う。

 

引用:https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=13441
In Action

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なんといっても主人公の喜多見チーフが素晴らしかった。MERの理念そのものと表現された彼の人格と行動そして医療技術、どんな危機的状況も彼が現れれば何とかなると安心させられる存在感が、全編にわたって持続していたのが本当によかった。

 

どんな時も喜多見は冷静沈着に現場を把握しメンバーへ的確な指示を行う。これがどれだけ危機的な状況にあっても変わらず、声を荒らげることも無ければ、メンバーからの応答にも返答する人柄の良さ。そして常に患者への気遣いを忘れずに臨機応変に対応するというまさに""超人""としか言いようがないキャラ造形なのである。そのため喜多見チーフはあまりにもフィクショナルな側面があり、傍から見れば「そうはならないだろ」というツッコミが真正面からとんでくるのが普通だと思う。

 

しかしそこに説得力を持たせる鈴木亮平の演技力がとにかく素晴らしかった。ガタイのいい体格と頼もしい背中に加えて、笑うとキュッと目が細くなるあの笑顔はマスク越しでもハッキリと伝わる。彼の出演する作品はそれなりに視聴してきたけど、演じてきた役柄へのハマり具合に関して今回は尋常ではなかったなと。特に第1話は作品としてのイントロダクションでありながら喜多見チーフの初陣だったのだが、彼に向けられる視線を逆手にとり、そこから逆転させて必ず彼を好きにさせる展開の起承転結が見事だった。

 

引用:https://news.mynavi.jp/article/20210905-1965032/

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そんな喜多見と対立する厚労省の医系技官である音羽は「ザ・2号ライダー」概念みたいなキャラクターだった。MERを潰すために派遣されたにも関わらず、目の前の命を救う事は厭わない。官僚よりも先に医者であることを絶対に曲げない信念が度々垣間見える瞬間に、グッときた。表情一つ変えず全体的に感情の読めない演技を求められる役柄だったと思うが、その期待に存分に応えた賀来賢人の演技力は言うまでもなく、彼のキャリアを代表する役柄になっただろう。

 

音羽の内に秘めている熱い思いが吐露される第5話は、思わず泣いてしまった。常に冷静沈着で無感情な人かと思いきや、医師の道から官僚の道へ進んだ決意の中に誰よりも熱く「命を救いたい」という思いを滾らせていたのだ。そんなん好きになるに決まってるだろ……。そんな彼は誰よりもMERの必要性を理解しているはずなのに、チームを解散へ追い込むためにあの手この手を尽くす板挟みの感情に振り回されるところまで含めて大変美味しいキャラクターだったな、と。

 

人間的にも正反対な喜多見とは水と油の関係で握手すら拒むほどなのに、いざ現場で患者への救急措置を行う時の喜多見とのコンビネーションは、他の誰とも比べることが出来ないほど完璧なチームプレーをこなす。この二人がオペ室に並んで入室する時の頼もしさといったら、まさに悟空とベジータ、巧と草加のような理想の相棒関係である。

 

引用:https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/08/22/kiji/20210821s00041000624000c.html?page=1

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MERには他にも喜多見や音羽と共に最前線で活動するメンバーがいる。それぞれ個性に溢れているが、一貫して「命を守る」志という根っこがブレないのが良かった。医療シーンに視聴者をしっかり集中させるために、人間ドラマにおける余計なストレスが最低限に抑えられるようにバランスがとられたのだろう。

 

喜多見や音羽に続く医師として派遣されたのは研修医の比奈先生(演:中条あやみ)。自ら現場に赴いて医療行為を行うMERに懐疑的な視点をもつ彼女を通して、医療のあるべき姿を問うドラマが描かれていくのだが、比奈は『TOKYO MER』のもう一人の主人公ともいえる存在なのだ。循環器内科との兼務に忙殺され、自分の失敗をずっと引きずりながら、進むべき道に悩む姿はMERの中で最も等身大なキャラクターだったので、一番感情移入して見ていたかもしれない。だからこそ第2話において、トラウマを乗り越えて自分にしか出来ないトリアージ(傷病者の優先順位付け)に駆けつける姿に胸が熱くなった。

 

引用:https://www.crank-in.net/news/91618/1

 

看護師の副長を務めながらMERを兼務し、オペ中の器械出しや現場での迅速な処置をサポートする夏梅(演:菜々緒)。そもそも夏梅というキャラを演じた菜々緒のビジュアルがハマりすぎており、展開として性別に関係なく勇気を発揮しなくてはならない場面が多々あったのだが、菜々緒の凛とした佇まいの説得力が凄かったなあと。もちろん演技にも申し分がないことが前提として。

 

オペ中の患者に施す麻酔全般を全て担い、影の大黒柱である副チーフの冬木先生(演:小手伸也)。ベテランとしての落ち着いた佇まいの中に、身は低く決して威張ったりはしない人間味の良さが冬木の魅力だろう。オペの流れを左右する患者への麻酔とバイタルチェックを行うのが、チームの雰囲気作りに常に気を配る彼の人柄とマッチしているのが上手い。そんな冬木が医療事案にたまたま居合わせた息子を救うために奔走する第6話は、親子の絆に泣かされる名エピソードだった。

 

引用:https://www.crank-in.net/news/91851

引用:https://cinema.ne.jp/article/detail/47276

 

国際協定によりベトナムから来日し、感受性豊かな人当たりの良さで安心感を与える看護師のミン(演:フォンチー)。チーム内の癒し担当でほわほわした雰囲気にもかかわらず、現場に出た時のギャップでいうとMER内で一番じゃないかなと。国家間の問題で大使館へ容易に救助ができなかった第7話では、ミンが涙ながらに警察を説得するシーンに胸を打つものがあった。アイドリング!!!時代から活動しているフォンチーの下積みが彼女の演技に深みを与えているのかなと思ったり。

 

チーム最年少ながらも最新医療器具の扱いに長けており、その技量でメンバーの何度も救ってきたメカニカル担当の徳丸(演:佐野勇斗)。彼がドラマの中心にいる単独回がなかったことが唯一悔やまれることだが、要所で絶妙なサポートを行いMERを救っていたことが印象深い。ちなみに演じる佐野勇斗中条あやみは「3D彼女」という作品で主演を飾った2人なので、同作が好きな自分にはこの共演にとてもテンションが上がった。

 

引用:https://www.oricon.co.jp/news/2203226/photo/14/

引用:https://mantan-web.jp/article/20210705dog00m200056000c.html

 

 

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1クール前半はさまざまな極限状態の中で、いかにして東京MERが命を救うのかが描かれていく。可燃性ガスが充満した状況や人質をとった籠城事件、山間で子どもたちが集団で遭難するトラブルなど、危機的状況は多種多様である。メタ的な視点で言うと少し意地悪になってしまうが、彼らをいかに追い込みギリギリの状態にさせるかを逆算した状況が続くので、「そうはならんだろ!」と言いたくなる場面は確かに多い。しかしフィクションとノンフィクションの間を、針穴に糸を通すような感覚で貫くドラマが絶妙というか「可能なのかもしれない」に説得力を与えるキャストの演技と医療考証の賜物なのだろう。第4話における崩落事故で重傷を負った女性へのオペと彼女が届けた心臓を移植する難易度の高いオペが、喜多見チーフと彼の元妻である高輪先生(演:仲里依紗により同時進行で施されるライブ感なんてまさにその極みだったなあと。

 

そして後半はひた隠しにされてきた喜多見チーフの空白の1年に迫りつつ、喜多見と過去に因縁のあるテロリストの椿(演:城田優)が東京を恐怖に陥れる縦軸で物語が牽引されていく。目の前の命を救うことに全力を注ぎ、どんな危機的な状況あってもチームで乗り越えてきた東京MERに、究極のジレンマともいえる命題が突きつけられる。それは、命を救うことはどんな時も正しいのか、たとえそれが悪人の命であっても変わらないのか。それが第10話にしてついに死亡者1名を出してしまう衝撃的なエピソードである。そこで亡くなってしまうのが、喜多見チーフの妹の涼香なのだ。

 

あまりにもショックだった。そして怒りが湧いてきた。どう考えても涼香の死に必然性を感じられなかったからだ。兄譲りの人当たりと面倒見の良さでMERメンバーとも進行が深く、あの音羽も心を開いていたためこの二人の関係性に展望を抱く視聴者も多かったのではないだろうか。そんな自分は展望を抱いていた側の人間だったので、そんなフラグを見事にへし折る衝撃的な展開を受け入れることができなかったのだ。

 

引用:https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/09/06/gazo/20210906s00041000331000p.html

 

これまでMERの活躍で、どう考えても助かるのは不可能だと思われる場面で患者が息を吹き返したり、あの喜多見チーフですら一度心停止で死んだところを心肺蘇生で復活したし、心臓に疾患のある赤塚知事(演:石田ゆり子厚労省の特例許可で承認されたIPS細胞の手術で一命をとりとめた。多少の無理筋を通しても命が救われる展開が描かれていたのに、なぜこうもあっさりと涼香を死なせてしまったのか。このドラマのコンセプトに「すべての医療従事者に感謝を」が掲げられている。だとすれば、彼らの無力さを描いてしまうのは尚更その意に反するのではないか。作劇上の意図として、最終回を盛り上げるために喜多見チーフのような超人を追い詰めるには、妹の死が最も効果的であるのは明白なので、いわゆるこの展開は”下げるための下げ”でしかないな、と。

 

放送時期を考えた時に無視できないのが、私たちはコロナ禍を経ているということである。生活が激変し昨日までの常識が一切通じなくなった世の中で、今日元気だった人が明日には死んでしまっていたり、身近な人が突然帰らぬ人になる恐怖を嫌という程に体感していた。なんというのだろうか、現実があまりにも理不尽だった時にフィクションだけはせめて綺麗であって欲しいと思ってしまうというか。そんな希望を抱いていたのだと思う。

 

 

それ以前のエピソードは全て楽しんでいたが故にこの展開をどうにも受け入れられず、なぜこんな悲劇を生んだのか理解しがたかったのだが、脚本を務めている黒岩勉氏のインタビューにこんな文言が掲載されていた。

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 「コロナ禍で毎日発表される感染者数や死者数が、まるで記号のようになっていると恐ろしく感じました。でも、1人の死者にも家族や友人、大切に思ってくれていた人たちが大勢いて、それは数字や記号なんかじゃなくて、とてつもなく重いもののはず。そして、そういう現実を医療従事者の方々は背負って、今も頑張ってくれているのだと思います。MERチームの唯一の使命は『死者0』ですが、現実には全うできないこともある。たった1人の命がこんなにも重いものなんだということを、しっかり表現したいと思って連ドラのラスト2話を書きました。連ドラと映画、両方をご覧いただいた時、喜多見幸太の人生、MERチームの成長を地続きに感じ取っていただけると、うれしいです」

 

 

涼香の死には必然性がない、それにこそ意味があるのだと。

 

私たちの生きる現実でも、常に最前線で戦っておられるのが医療従事者の方々である。コロナ禍があろうとなかろうと、今もなお様々な理由で生きるか死ぬかの瀬戸際にある人達を必死で救おうと尽力してくれている。しかしそれでも救えない命があるという事実があって、そこにフィクションという綺麗事でフタをしてしまったら……。確かに物語としての後味は爽快でTOKYO MER最高!で終われたのかもしれない。でもそれは現実にある医療従事者の方々へのリスペクトを欠いてしまうのではないか。それは「すべての医療従事者に感謝を」というコンセプトに反してしまうのだと、制作陣は考えたに違いない。

 

死ぬことに必然性などなく、我々はそれをコロナ禍の影響で身近に感じたが、医療従事者の方々はそれの比にならないほど、実感されていたのではないだろうか。自分は当事者ではないため、知ったようなことは決して言えない。しかし命を救えなかった時に感じた喪失感や絶望、どうにもならない悔しさがきっとそこにはあったのだと思う。その感覚を擬似的に視聴者である私たちが体験するための展開だったのかな、と思うのである。理不尽だしやるせないし怒りが湧いてくる。喜多見のように喪失感で苛まれて起き上がるのがやっとの状態であっても、目の前で助けを求めている人がいれば、駆けつけなければならない。常に自分という個を捨てて医療行為に全力を注がなければならない。そんな気持ちを日々、医療従事者の方々は感じているのだろう、と。

 

 

最終話。椿が引き起こした同時多発の爆弾テロで都内各所が壊滅状態。喜多見が現場に復帰しないままで東京MERは出動し自分たちに出来る精一杯の救命活動を行うが、次々に運ばれてくる傷病者への対応で満身創痍。ガスが充満する地下で負傷者を救おうとする音羽だが、中毒により意識を失いかける。その時倒れかけた音羽を支えたのが、喜多見チーフだった。

 

すべての命を守るのがMERの使命

すべての命を守るのがMERの使命

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第1話で喜多見のピンチを救った音羽が今度は逆に救われるリプライズに否が応でもアツくなる。そこから喜多見が前線に復帰し、現場の雰囲気が一気に好転するシーンは作品史上最もカタルシスを感じた瞬間だった。命を救うことはどんな時も正しいのか、その問いへの答えは明白だった。縦割りの弊害を越えて駆けつけた機動隊の面々は、第3話で救っていなければこの場にはいなかった。共に死線を乗り越え命を救った千住隊長やレスキュー隊がいなければ、救える命も救えなかった。喜多見チーフの思いに心を突き動かされたMERのメンバーがいたから、ここまでやる事が出来た。喜多見が繋いできた命のリレーは他の誰かに受け継がれ、その絆がまた他の誰かに繋がれていく。そして喜多見は再びテロリストの椿を救うことになるのだが、その目に迷いはなかった。悲しみを乗り越えて命を救う者として、最後の処置を終えた喜多見の表情には笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

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私たちの身の回りには必ず医療機関が存在する。小さなクリニックや大きな大学病院、その規模に大小はあれど共通しているのは、医療従事者の方全員が命を救うために働いているということだ。当たり前だけど当たり前じゃない、自分たちが安心して暮らしていけるのもいざという時に”彼ら”が助けてくれる安心感があるからなのだ。そんな日々のありがたさに気づかせてくれた『TOKYO MER』に感謝を伝えたい。