本当の戦いはここからだぜ! 〜第二幕〜

好きなものをどんどん語ります

感想『サクラ大戦(TV版)』気高く戦う乙女達が魅せたのは、熱き心を燃やす正義と浪漫の物語

 

 

 

物心のついた時から、大好きだった歌がある。

 

 

 

檄!帝国華撃団

檄! 帝国華撃団

檄! 帝国華撃団

  • 横山 智佐 / 富沢 美智恵 / 高乃 麗 / 西原 久美子 / 渕崎 ゆり子 / 田中 真弓
  • アニメ
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

 

1996年にセガサターン用で発売された『サクラ大戦』というゲームソフトの主題歌であり、シリーズを代表する楽曲である。誰もがどこかで耳にしたことがあるのではないだろうか。音の厚みを感じさせる勇壮なインストは、テンポよく刻まれたストリングスの演奏によって彩られる。帝都を守る為に戦う乙女達の決意を示した歌詞は、その一つ一つのフレーズが後に特撮オタクへ転身する幼き日の自分に強く突き刺さった。

 

 

"「青い山脈」を特撮の戦隊モノっぽく"というオーダーを受けて出来上がったという話にも納得がいって、全体的なメロディにもどこか懐かしさを覚えるのは、昭和の歌謡曲を聴いている時の感覚に近いし、うちからこみ上げてくるものが確かにある。つい先日、劇的な逆転優勝を決めたオリックスバファローズに所属している福田周平選手は、登場曲にこの曲を採用している。

 

 

わたしたち 正義のために戦います
たとえ それが命をかける戦いであっても 
わたしたちは  一歩も引きません! 
それが 帝国華撃団なのです!

(https://www.uta-net.com/song/22482/ より引用)

(間奏で流れるセリフシーンはベタだけど、こういうのが良い。)

 

 

そうして聴いているうちに、ふと頭によぎったことがある。

 

「こんなにオープニングは聴いているけど、『サクラ大戦』って見たこともないし、全然知らないなあ。」

 

ありますよね、その主題歌は好きでめちゃくちゃ聴くのに作品自体は全然知らないやつ。せっかくならば、原典となった作品についても知ってみたいと一念発起。本当ならゲーム版をプレイしてみたかったが、ハード的な都合でやむなく断念。だったらアニメ版を見ていこう。そして準備は出来た。

 

 

 

 

 

※以下、アニメ版『サクラ大戦』のネタバレを含みます※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々言いたいことはある。

 


でも俺は、アニメ版『サクラ大戦』が好きだぜ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そもそも『サクラ大戦』とは何なのかというと、蒸気機関が発達した架空の日本「太正時代」を舞台に、帝都を襲う「降魔」から平和を守るために結成された秘密組織「帝国華撃団」の戦いを描いた和製スチームパンクの作品である。美少女のキャラビジュに惑わされてしまいがちだが、大まかなストーリー展開は王道のヒーローものなのだ。

 

 

ゲーム版であれば、主人公になるプレイヤーは帝国華撃団花組」の隊長を務め、共に帝都を守りつつ花組のヒロイン達との仲を深め、個別ルートに進むことが出来る。しかし、アニメ版はでそうした恋愛要素を廃しており、花組の面々の群像劇にスポットを当てている。主人公をヒロインの一人である真宮寺さくら(cv.横山智佐に変更し、もちろん花組の隊長である大神一郎(cv.陶山章央も登場するが、あくまでサブキャラの一人。

 

 

 

 


この改変はとても上手いなと感じている。ギャルゲー要素のある原作をそのままアニメにした場合、ルートを誰かに固定させる必要がある。しかし、それはファン心理を考えても偏りが出てしまうので、あえて最初から廃してしまう。そしてヒロイン達をメインに据えることでゲーム版とは違った視点を生み出し、ドラマをより重視した作劇に転換させたのである。

 


序盤の1クール目は、さくらを含めた花組のメンバーを中心にドラマを掘り下げ、彼女らがチームとして一つになっていく過程を描いていく。亡き父の跡を継いで花組への入隊を決めた新人隊員の真宮寺さくら、慕っていた隊長を見殺しにしてしまった過去を背負う元軍人のマリア・タチバナ(cv.高乃麗、才色兼備で名家出身の高飛車お嬢様である神崎すみれ(cv.富沢美智恵、戦争孤児の出身ながらも天才発明家でメカニックを担う李紅蘭(cv.渕崎ゆり子沖縄空手の名手で随一の格闘センスを誇る桐島カンナ(cv.田中真弓、などその個性はさまざま。

 


そうしたドラマ性を担うために、キャラの設定にも一部変更がなされている。それは花組最後の一員で作中きっての超能力者であるアイリス(cv.西原久美子である。ゲーム版では明るく活発でおてんばな少女なのだが、こちらのアニメ版では内向的で人見知りな少女となっている。

 

個人的には、サイキッカーとして恐れられていた過去を踏まえると、他人に対する疑心暗鬼の気持ちが膨れ上がり、内向的な性格になる方が説得力を感じる。でもそれは、ゲームとアニメでどちらを先に知るかだけのことであり、アイリス推しのファンからすればこの改変に思う所があったのだろうな、と。

 

 

ただ、その改変のおかげでアイリスが花組に心を開くまでが、1クール目の山場に設けられている。アイリスの誕生日を祝う為に花組のメンバーが協力し合って、一度は失敗するものの、ついに彼女が心を開き仲間になることが出来た第12話は、その展開も相まって涙腺にぐっとくるものがあった。

 

 

 


そしてもう一つ特筆すべきなのは、戦闘シーンである。

 

実は劇中で花組は、まともな勝ち方をほとんどしていない。花組は霊力をエネルギー源にしたロボットの霊子甲冑(りょうしかっちゅう)「光武(こうぶ)」に搭乗して、帝都を襲う降魔と戦いを繰り広げる。第5話では敵の幹部が復活し、さくら・マリア・すみれの三人が出撃して降魔に挑むも、苦戦を強いられてしまう。頭数を揃えられて一騎打ちになるとほぼ互角の戦いになり、光武は同等の損害を受けて機能を全停止。幹部は退けたものの、苦しい勝利となる。

 

 

帝国華撃団だとしても、パイロットは皆が軍人上がりではなく、訓練を積んでいてもその経験値に差が出てしまう。敵の精神的な揺さぶりに綻びが出てしまい、その隙をつかれて一気に戦局が変化する。そう簡単に勝てないし強くもならないという点でかなり現実的な描写だったし、己の未熟さや弱さを知り、その後味の悪さを噛み締める印象深いエピソードだった。

 

 

 

ここまでかなり楽しんだ感想を書き連ねているが、正直なところ、よく出来た作品ではなかった。良かった点を語っていくと、否が応でも惜しかった点が同じくらいに湧き上がってしまう。あの『サクラ大戦』という90年代サブカルの一時代を築き上げた伝説的なゲームソフトを題材にしたのであれば、もっと作り込んで、もっと面白く出来たのでは・・・??という気持ちは全く拭えない。

 


先ほど述べたように、各キャラのドラマは描かれるのだが、花組のメンバー同士による掛け合いが光る日常回や、劇団公演を行う姿をもっと見たかったなあと。クオリティの面でいえば、動きの多いシーンで作画が安定しないこともしばしば。戦闘シーンが少なかった点における負の側面と言えるだろう。ゲーム版で時折挿入されるアニメシーンの作画クオリティを期待してしまうと、普通に面食らってしまうだろう。

 

 

その中でも特に一番惜しかったと感じるのが、神崎すみれの描かれ方である。

 

花組の他メンバーは1クール時点でキャラの掘り下げがあったにも関わらず、すみれだけが明確に描かれることは無かった。シーン毎の演出で推察することは、確かにできる。演劇に対して人一倍の情熱を注いでいること、高飛車な態度とは裏腹に誰よりも努力を怠らないこと、名家の出身ゆえに生まれる肉親との確執があること。しかし、こうなった理由や原因となる背景がほとんど描かれていない。

 


母親が有名な映画スターである説明はなされていたが、だからといって、彼女がそこに憧れて同じ道を進んだ事を示すセリフや示唆させるシーンは、特に無かったと感じる。そして唯一すみれがメインとなるドラマが描かれるのは、最終回の一つ前のエピソード。タイミングとして余りにも遅すぎた。ここで肉親との確執、そして和解まで描かれたが、正直性急すぎただろう。

 

 

 


神崎すみれというキャラをどう描くか、それがこのアニメ版『サクラ大戦』の命運を分けたのだろうなと感じている。なぜかというと、主人公のさくらとすみれの関係は、まさに「ドラゴンボール」の悟空とベジータにそっくりなのだ。

 

血筋による天性の霊力が開花し、歌劇団でも戦闘においても必然的に「花組」の中心となっていくさくら。幼い頃から訓練を積み、影の努力と研鑽を惜しまず常にトップへ君臨し続けたすみれ。降魔との戦いが激化する中で、すみれのいた場所は徐々にさくらへ入れ替わっていく。

 

新人でぽっと出の隊員に、自分の積み上げてきたものが安々と奪われてしまうことで募る焦燥。努力を積んでも埋まらない絶対的な格差。実際のところ、後半からすみれのさくらへの当たりが厳しくなる場面がしばしばあった。しかし、さくら自身はすみれを疎むどころか尊敬の念を持っており、舞台でも戦闘でも彼女の背中を追いかけようとする。そのさくらは、無自覚にすみれを追い抜いているという現実。

 

 

 

ドラゴンボール」的に例えるならば、すみれの抱えるフラストレーションは、ベジータが抱えていた心の闇と同じ。どれだけ努力を重ねても、常に自分よりも一歩先を進む悟空への羨望と嫉妬。この感情を軸に、さくらとすみれの関係にスポットを当てても良かったのではないだろうか。

 


第20話でさくらが敵の黒幕に洗脳されてしまう一幕がある。これは個人的な与太話だと思って聞いてほしいのだが、その役目をすみれに担わせても良かったのかな、と。さくらへの嫉妬を利用されて一度闇落ちしてしまうも、そこで気づく自分の愚かさ。そしてさくらへの懺悔に向き合うことで、もう一度立ち上がるすみれの成長譚を見せてほしかったな、と。

 

 




この両者の関係性をもっと深く突き詰めていけば、主役の重圧に押しつぶされそうになるさくらが、すみれなりの荒療治で奮起させる第18話に、視聴者としてもう一歩感動できただろう。そしてこの関係への決着が明確に描かれないまま、すみれのメイン回となる第24話で「花組」全員が力を合わせて繰り出す必殺技”破邪の陣”が、一応完成されてしまうのである。真の意味で、花組の気持ちが一つになったとは思えないまま完成するというのは、微妙に引っかかってしまうのである。

 

 

 


さらに、神崎すみれというキャラへの描写不足を考えたときに、作品最大ともいえる盲点が浮き彫りになってしまう。

 


それは、なぜ帝国華撃団は「華撃団」と「歌劇団」を両立させているのか、という点である。帝都を守る秘密組織としてのカムフラージュは理解出来るが、組織全体が総力を挙げて演劇に力を入れる理由としては弱すぎる。普通に考えてみると、演劇に熱を注ぐ時間があるのであれば、軍人としての鍛錬にもっと力を注ぐべきだろう。しかし、この両立の意味するところが、劇中で語られることは無かった。

 

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その答えと思われるものは、14年ぶりの新作となった「新サクラ大戦 the Animation」の紹介PV『5分でわかる!サクラ大戦の世界!』にて説明されていた。

 

それはつまり、”巫女の舞”である。

公演を行い人々を楽しませるだけではなく、霊力を持った「花組」が歌い踊ることで降魔の源になる邪気を払うことに繋がる。演技の質を高めるほど、込められた霊力も増していく。つまり、彼女たちにとって「演劇を行うこと」は「帝都を守ること」に直結するのである。

 

 

とても納得がいった。このような堅実なロジックが設定されているのに、劇中で一切その言及がなかったのだ。も・・もったいねえ・・・。その理由が明示されていれば、「花組」が初めての公演を成功させるために悪戦苦闘する第8話を、よりエモーショナルに描くことが出来ただろう。

 

 

 


いわゆる大人の事情は少なからずあれど、アニメ版が目指していた方向性や全体の構成には独自の面白さが確かにあった。それがもう少し有機的に絡んでいれば、間違いなく傑作になっていただろうと思う。

色々と惜しい。あともう少しなのに・・・。そんな思いが募る。

 

 

 


しかし、それは決してつまらなかったことを意味する訳では無い。

 


2クール目に突入してから、物語は降魔を率いる黒幕の葵叉丹(あおいさたん)(cv.家中宏との決着に向けて動き始める。さくらの父が所属していた対降魔部隊の過去であったり、光武の設計者が実は山崎真之介=葵叉丹であることが明かされるなど、縦軸を意識したシリアスで重めな展開が続いていく。

 

葵叉丹が仕掛けた術によって操られたさくらと花組の内部分裂、米田司令(cv.池田勝がかつての同胞である葵叉丹と決着をつける一騎打ち、そして敵の総力を上げた大帝国劇場への強襲。クライマックスに向けて積み重ねた要素たちを確実に収斂させていく運び方は、一本の筋が通っていて信頼できる構成だったといえる。

 

 

ただ、「花組」が常にギリギリで踏み留まっている戦況が示すように、物語上の「溜め」がどうしても長い。ここまで引っ張るからには、相応の展開が待っているのだろうか。そこに見合うクライマックスが得られるのだろうか。残り三話しかないのに「花組」の個別エピソードが差し込まれるし、これは本当に大丈夫なのか・・・という不安ばかりがつきまとう。

 

 

 

 


そして迎えた、最終話。

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう・・・・・・

 

 

 

やってくれた!!!

 

 

 

これがッッ!!!見たかったッッッ!!!!!

 

 

 


展開のテンポ感も含めて若干詰め込みがちになったことが転じて、熱量の高い最終回に昇華したのはまるで「ウルトラマンネクサス」のようだった。囮を買って出る大神隊長のカッコ良さ、そして敵の本陣へ蒸気船ごと正面突破する「花組」、ワンシーン毎に繰り出される熱い展開の数々。それでも葵叉丹が召喚した魔操機兵「神威」の猛攻に全く刃が立たない。

 

 

しかし、帝都に住む人々の声が「花組」の皆に届く。

 

これ。これなんですよ・・・。

 

 

市井の人々が「花組」へ声援を送る。このシーン自体は、ヒーローものでよく描かれる展開だが、そこに展開としての”納得”が生まれるかどうかは別問題なのである。さくらが迷ったときに手を差し伸べてくれたトラ坊(cv.小林由美子とその母親、歌劇団の公演を続けていく中で生まれた人々との縁、「花組」の面々が内に秘める覚悟。そして戦火の中で声援を送るトラ坊を皮切りに、人々の声援が続いていく。このたった数秒に満たないシーンの中で、劇中に何気なく描かれてきた人々の暮らしや子どもたちの走る姿が思い浮かんできたのである。

 

(↑さくらとトラ坊の関わりは第2話で描かれていて、それをまた最終話に持ってくるのが偉すぎるんですよね)

 

 

花組」がなぜ命をかけて戦うのか。

それは帝都を守り、そこに住む人々の暮らしと笑顔を守るため。

この当たり前の文言にアニメ版は重みを持たせてくれた。

 

 

(↑人々の声援を受けて立ち上がる、とある街を舞台に戦うヒーローの物語。あの流れはマジでこの映画と同じでした。)

 

 


そして大神が本陣へ駆けつけ、真の意味で帝国華撃団花組」が集結。

やっっっっと「花組」の真価が発揮されると思った瞬間、ここでOPのインストが流れる。「檄!帝国華撃団」のインスト版である(大事なことなので二回言った)。

 

檄! 帝国華撃団 インスト

檄! 帝国華撃団 インスト

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 


いや〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

最ッッッッッ高でしょ〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

やべえよなこれはあああああ!!!!!!!

 

 


炸裂する各々の必殺技が、怒涛の勢いでたたき込まれる。各々の個性を活かしながらコンビネーションで圧倒していく姿は、まさに舞台公演を見ているかのよう。ここは文句なしにアガるし、加えて「ゲキテイ」のインストが流れているのだから最高の最高である。

 

このインストが原曲よりも少しアップテンポに改編されているので、よりヒロイックさが増しているのも良い。そして最後にトドメの「破邪剣征・桜花放神」、さくら役の横山智佐さんによる発声がカッコ良すぎて涙腺にくるものがあるぐらいに素晴らしかった。多少の強引さはあるし至るまでの紆余曲折は目立つものの、ここまで王道で直球にアツい最終回が見れたことは本当に嬉しかった。

 

 

だからこそ、もう一度言う。

 

 

アニメ版『サクラ大戦』が大好きだ!!!!!

 

 


※※※※※※

 

 

 

アニメ版を完走して思うことは、原作のゲーム版をプレイしてみたいということだ。やはり『サクラ大戦』という作品の主媒体はゲームにあるので、真髄を理解するにはそれを体感するしかないのである。OVAも何作かリリースされているが、いずれもゲームの前・後日譚作品なのである。劇場公開された『サクラ大戦 活動写真』も実は鑑賞したのだが、ゲーム作品の間を埋めるストーリーなので、やはり知っている前提なのである(なぜ見たのかと言うと劇場版をアニメ版の続編だと勘違いしていたからです・・・)

 

 

ゲーム展開が一旦終了しても、2.5次元の先駆けとも言える声優陣のコンサートや、11周年・15周年の際には武道館公演が開催されたり、『サクラ大戦』というコンテンツがいかに根強い人気を持つコンテンツなのかは、言わずと知れたことなのだろう。そうでなければ、2019年に『新サクラ大戦』という直系の続編が発売されるなんてことはないだろう。過去作のリマスター版があわよくばNintendo Switchでリリースされれば・・・こんなに嬉しいことはない。

 

 

 


そんな『サクラ大戦』はU-NEXT・dアニメストアで映像作品がほぼすべて網羅されている。もし気になった方がいれば、是非とも見て頂いて、太正桜に浪漫の嵐を共に感じてもらいたい。

 

 

 


『新サクラ大戦』の続編、俺も待ってます。