『M-1グランプリ』のトップバッターに高得点をつけることが出来ない意味が分からない

 

 

 

M-1グランプリ2024は前代未聞の幕引きとなった。

昨年大会の優勝者である令和ロマンが大会初の二連覇を成し遂げたのだ。

 

彼こそが海賊

彼こそが海賊

  • provided courtesy of iTunes

 

二年連続でトップバッターを引き当てた令和ロマンが全国から笑いをかっさらい彼らの一強が続くと思われたが、決勝の常連組である真空ジェシカが時代にやっと追いつき、バッテリィズという今大会のダークホースが一番の大ウケを取り流れを変えた。しかし最終三組のネタが出揃った時に優勝するのは令和ロマンだというのは疑いようのない納得の帰結だった。自分としては真空ジェシカエバースが大変面白かった。真空ジェシカは変わらずの独特なボケは残しつつ、彼らのスタイルが確実に進化した漫才だった。商店街ネタの何気ない一言や伏線回収も見事だったし、二本目のアンジェラ・アキは絶対に優勝しないと確信したけどあれをやる心意気に負けてしまった。エバースは建物の階層を利用した観客の想像力に頼るネタだったにも関わらず、ボケとツッコミの説明が上手く純粋なしゃべくりネタとしてびっくりする程に面白かった。あの点数で上位3組に残れなかったのは本当に残念だったと思う。

 

natalie.mu

 

ここで本題。

1組目のネタが終わるとだいたいの審査員が口を揃えてこう言う。

「面白かったがトップバッターなのでこの点数にしました。」
「最初だから点数を付けづらいんだけど……」

 

意味が分からない。

 

 

もっと噛み砕いてみる。

M-1グランプリ』の決勝戦で1番目にネタを披露したコンビには、後に控えているコンビのことを考えて、あまり高い点数を付けることが出来ない。

 

もっと意味が分からない。

 

その理由はおそらく点数を決める際に相対評価絶対評価のどちらを用いるのか、という話になるのだろうと想像はつく。そしてトップバッターに高い点数を付けられないという理屈は前者の考えに近い。決勝戦に出場した8組のコンビを順位付けする中で、「そのコンビがどれだけ面白かったのか」よりも「出場した全コンビの中でどれだけ面白かったのか」に評価軸が置かれている。そもそも大前提としてお笑いのような芸能の類に、点数をつけようとするのが無理筋なことだという事実がある。点数こそつかないが映画界の最高峰と言われているアカデミー賞とも同じで、個々人の受け取り方や感性によって見え方も感じ方も大きく変わるものに、客観的な判断基準として数字を付与する。そんな無謀なことをやろうとしている大前提の上で、審査員がいて漫才師の頂点を決めようというのがM-1グランプリなのである。

 

今回付けられた点数を見ていても、基本的に忖度を感じるのである。ベースは90点台をキープしており、点数が低いといってもギリギリ90点を下回るか、一番低くてもアンタ柴田がトム・ブラウンにつけた87点だった。M-1の点数が基本的に高くなるのは今大会に始まったことではないのだけれど、先に述べた相対評価に軸を置こうとしすぎているというか。それに付随してネタの評価を理論的に言葉で評価するのも評価をする観点では大切なことだとも思うのだが、審査員の感性をもっと表立てて少し独善的に評価しても良いのになあと。それが許されるのが「お笑い」というフィールドなのに。

 

 

その中でも昨年度の大会から審査員を務めている海原ともこの評価が一番公平だったように思う。何番目に漫才を披露したのかはしたかは関係なく、そのネタが面白いかどうかを判断する。後先を考えていないような採点基準に思えるのだが、それが自ずと順位になっていき審査基準になっていくと思うのだけれど、それではダメなのだろうか。なぜか少し炎上していたヤーレンズに対しての「もっとしょうもないことをして欲しかった」というコメントは、ボケの中身が高度すぎて笑いよりも感嘆が勝ってしまったことを的確に突いていたのではないだろうか。

news.yahoo.co.jp

 

今回のM-1グランプリ勝戦では、合計9名の審査員が配置された。今大会から新たに起用された審査員として、かまいたち山内オードリー若林アンタッチャブル柴田などが選出され、審査員のメンツとして申し分はない選考だと感じた。出場芸人が若年化している傾向と時代の変遷と共に変化する「笑い」の潮流を掴み取る意味合いでも、若手から中堅どころまでかなり手堅く揃えてきた印象である。ただ、冷静に考えるとそこには漫才師しかいない。最も面白い”漫才師”を決める大会なので筋としては間違っていないのだが、もっと多様な職種から呼んでみてもいいのでは?と個人的には感じてしまう。

 

例えば歴代大会では立川志らくや談志が参加したし、賛否両論が巻き起こった山田邦子の参戦もマンネリ化した審査基準に新しい風を巻き起こしたという点で、非常に面白かったと思う。漫才の面白さは「話芸」というスタンスを守れば何をやっても許される可能性の大きさだと思っていて、純粋にボケとツッコミの掛け合いで魅せる喋り型も、創造力と発想力で攻めていくコント型も、エンタメの色んなエッセンスを掛け合わせて生み出されるものなのではないだろうか。こうしたエンターテインメントの観点から言えば、劇作家の三谷幸喜鈴木おさむ、映画監督の矢口史靖上田慎一郎が審査員として名を連ねてみても面白いのになと思っている。

filmaga.filmarks.com

 

と、こんなことをふと考えてしまったのですが、皆さんはどう思いますか。
今年もまたM-1グランプリを楽しみにしている一介のファンからの独り言でした。